「技術委員長」を「日本代表監督」に据える失策 “消極的”勝利至上主義が招いた窮地

「技術委員長」のポストは十年の計

 一つの方針を立てれば、その他の考え方は排除される。サッカーに正解はない。もしかしたら協会の立てる方針は不正解かもしれない。いや、W杯に優勝するまで正解と言えそうなものは出ない。

 逆に、だからこそ方針を立てる必要がある。例えばボールを持っても持たなくても、速攻でも遅攻でも、ハイプレスでもゴール前にバスを置いても“強い”のが理想とするなら、そこへ至る順序を決めなければならない。全部いっぺんにできるぐらいなら今すぐでも優勝を狙える。順番に積んでいく必要がある。

 とにもかくにも、誰かが見識を持ってそれを決めなければならないわけだ。それが決まって、初めてまともな検証ができる。ベースアップができるようになる。

 結局、それを決めるのは一人だから責任は重い。それができるのはサッカーのエキスパートであり、エリート中のエリートだけだ。そしてそれこそが、「技術委員長」というポストである。1年や2年ではなく十年の計なのだ。

 その日本サッカーにおける最重要とも言える技術委員長を、わずか3カ月後には監督として解任し、つまりは技術委員長としても解任する可能性の高い仕事をさせてしまうのは、いくら次期監督の人材に窮したといっても理解に苦しむ。技術委員長というポストを犠牲にしても目先のワールドカップを何とかしたいという発想そのものが、今回の窮地を招いたことに気づいていないのだろうか。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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