W杯前の不振は吉兆になり得るか? ハリルが貫く「勝つためのチーム作り」とその弊害
欧州遠征で露呈した戦術的ベースの低下
現在のチームに起きる可能性があるのは、「撤退」ではなく「前進」だ。ハリルホジッチ監督はアルジェリアを率いた前回大会、対戦相手に合わせた選手起用で効果を上げた。今回も大会前の3週間でチームを完成させると話していて、作戦面での上積みは期待できるかもしれない。
ただ、マリ戦とウクライナ戦で表れていたように、ベースの戦い方をした時の実力がいま一つである。作戦面での上積みといっても、あくまでも付け焼き刃なので、大幅な進展は見込めない。ベースが低ければ、その上に何かを乗せてもまだ足りないということは起こり得る。
ベース部分が低くなってしまったのは、後で上積みを乗せやすく作っているからでもあると思う。ハリルホジッチ監督は、いわば自分で低くしてしまったベースに、自分の作戦を上乗せして埋め合わせすることになるわけだ。
ベースになっているのは、ミドルゾーンの守備ブロックを基本にコンパクトに前後させ、ボールを奪ったら速く攻めること。その時にはサイドチェンジや相手サイドバックの裏のスペースを早めに使っていく。速攻が無理な時はポゼッションに切り替えるが、基本的には縦に速くだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。