メッシの得点を生み出す「恐怖のステップ」 一瞬の“歩幅調整”で対峙するDFを破壊
自分とボールだけの関係で世界を破壊できる
で、チェルシー戦で気味が悪いと思ったのは、メッシがドリブルをする際に一切DFもGKも見ていないこと。いつもそうなのだ。ボールと自分だけ。なのに、DFがヘロヘロになっているのも、GKがタイミングを計りかねているのも完全に把握している。
もう見る必要がないのだ。DFとGKがどうなっているかは見なくても分かっている。たぶん子供の頃から分かっていたのだろう。もう、ここへ打てば入ると分かっている。だから、ボールに集中した方がいい。
人より小さい歩幅で人より速い。DFがなんとかそれに合わせようとすると、さらに歩幅を小さくする。するとDFが勝手に壊れてくれる。GKも見ないし、ゴールも見ない。“癖”だけで得点できる。自分とボールだけの関係で世界を破壊できる。
子供の頃のプレー映像を見ても、その時から同じなのが分かる。もういいわ、この人は……。DFは魂を抜かれるように倒れていく。メッシのゴールシーンが、だんだんホラーに見えてきた。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。