レアルの”勝負師”ジダンが仕掛けた序盤の罠 ”サンドバッグ”に殴られたPSGの誤算
PSGの”伝統”を崩した序盤の積極性
PSGは勝負のかかった試合で、キックオフからフルスロットルでプレーする傾向がある。最初の10分間ぐらいに持っているものをすべて出すつもりで攻守に圧力をかけ、その時間帯に1点を奪って試合の流れを決めてしまおうとする。「伝統」と言ってもいい。なぜそうなのかはよく分からないが、だいたいアドレナリン全開型の立ち上がりなのだ。今回は2ゴールが必要なので、なおさらそのつもりだっただろう。
ところがレアルは無闇に引かず、逆に果敢に攻撃し、前から激しくボールを奪いに行った。試合を沈静化させたいはずのレアルが殴り合いに応じたのは意外だったが、よく考えるとPSGの出鼻を挫くには、この方法がおそらく最も効果的なのだ。
最初の10~20分間を耐えてPSGの勢いが収まるのを待つのも手だが、押し込まれれば失点の危険は常にある。攻めて打ち合えば失点のリスクは増えるが、PSGの波状攻撃を受けないで済み、彼らの勢いを削ぐことができる。レアルはたとえ失点しても0-1なら勝ち抜けなので、試合全体のリズムを持っていかれるよりはマシでもあった。立ち上がりにレアルをサンドバッグにしようと思っていたPSGにとって、“殴り返してくる”サンドバッグには意表を突かれたかもしれない。
時間の経過とともに、レアルは当初の予定どおり後方にブロックを作ってカウンターを狙う流れになっている。最も危険な時間帯を打ち合いで消費し、その後に“塩漬け”作業へ。そして後半6分にカウンターからロナウドが先制。もう残り時間で3失点するような流れではなく、PSGのMFマルコ・ヴェラッティの退場で勝負ありだった。
ジダン監督は戦術的なイノベーターではないが、大一番の采配はことごとく当てている。普段はそうは見えないが、「勝負師型」の監督なのだろう。
【了】
西部謙司●文 text by Kenji Nishibe
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images