”MaJesty”うるさ型の英メディアを押さえ込んだ激烈な個性
実はこの5日前、ライアン・ギグスの不倫が発覚。ギグスはまさにマンチェスター・ユナイテッド(以下マンU)の生きる伝説と言うべき選手である。07年にOBE(大英帝国勲章)を受賞しているように、このスキャンダル発覚まで、彼の私生活は有名人として模範的なもので、ステイシー夫人と2人の子供に囲まれた家庭も幸福そのものに見えた。
不世出の大選手で、良き夫にして素晴らしい父。そうしたギグスの偉大かつクリーンなイメージもあり、同郷ウェールズのグラビアモデル、イモジン・トーマスとの不倫は非常にセンセーショナルだった。英メディアに激震を呼んだのも当然で、大衆的なタブロイド紙は、発覚から連日一面でギグス・スキャンダルを報じ続けていた。
こうした状況で指揮官のサー・アレックス・ファーガソンはバルセロナとの決勝を迎えた。だからこそ前日会見の直前、ピッチ外の雑音を何よりも嫌う闘将が英メディアに対し、「会見では試合に関する質問だけ。ギグスに関する質問は一切禁ずる」と布令を出したことは全く驚きに値しない。 だが、メディアはこんな”御布令“であっさり引き下がることはなかった。
ジャーナリストたちはスキャンダルが出てから雲隠れしてしまったギグスのネタに飢えていた。 ある地元記者がタイミングを見計らい、「このような大試合ではギグスのようなベテランの力が不可欠だと思うが、彼の状態はどうだ?」と聞いた。これは「試合に関する質問」を利用した誘導尋問だった。
次の瞬間、全国ネットのニュースが一般枠で扱った問題のシーンが生まれた。質問の直後、ファーガソンは隣に座った女性広報官のカレン・ショットボルトに「今ギグジー(ギグス)の質問をしたのは誰だ?―ban him―次の会見は出入り禁止にしろ」とささやいた。当然サー・アレックスは、この”指令“を公にするつもりなどなかっただろうが、現代の感度抜群のマイクは、彼のささやきをしっかりとらえていた