W杯躍進の鍵を握る「5レーンの攻防」 過去5大会で日本が戦術的に完敗した2試合とは?
3得点で快勝も後手を踏み続けたデンマーク戦
一方、2010年大会で戦ったデンマークは、5レーンの中央でMFクリスチャン・ポウルセンが攻撃の起点になった。この時の日本のフォーメーションは4-5-1なので、5レーンにおける数的不利は発生していない。しかし、C・ポウルセンは中央でフリーになっている。MF中央の噛み合わせがずれていたからだ。
日本がMF阿部勇樹を底に置き、その前にMF長谷部誠と遠藤を並べたトライアングルだったのに対し、デンマークの中盤はトップ下のFWヨン・ダール・トマソンに2ボランチなのでマッチアップは噛み合うはずだった。ところが、C・ポウルセンはビルドアップ時に中央のレーンへ移動するのでフリーになっていたのだ。
当然、日本は自分のレーンに敵がいないMF(主に遠藤)がレーンを移動してC・ポウルセンの対応へ向かう。すると、デンマークは外のレーンにいたウイングハーフ(FWデニス・ロンメダール)が中へ移動して、日本のMFが空けたレーンへ侵入。同時に右サイドバックが空いた大外のレーンを縦に前進する。日本としては人数不足ではないので混乱なく守れそうなのだが、実際には大外を縦に前進するサイドバックに対して長友とFW大久保嘉人の間で受け渡しをするので、その時にどちらかのマークが遅れていた。
デンマークはC・ポウルセンが1つレーンを移動することで日本のマークのずれを生み出し、そのずれを修正しようとする動きを利用して攻め込んでいた。この試合の日本の守備はずっと後手で、やられなかったのはデンマークがフリーになっている選手を上手く使えていなかったからだ。
バヒド・ハリルホジッチ監督はアジア予選の途中で、5レーンを5人で埋める守備に変えているので、ロシアW杯で大きな混乱はないと思う。また、5レーンを支配できても得点に結びつきにくくなった傾向も、2016年の欧州選手権では表れていた。
ただ、組み合った段階での有利不利は試合全体に影響を与える。相手の仕掛けに対処し、逆に日本が仕掛けていく――5レーンを巡る攻防は、ロシアW杯での見どころの一つになるはずだ。
【了】
西部謙司●文 text by Kenji Nishibe
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images