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ファン・ハール監督はいかにしてマンUを復活させたのか 3つのポイントとは?
理想的なサッカーよりも現実的なサッカー
そして、3つ目のポイントは「哲学の放棄」である。先ほど自身の哲学に合った選手を抜擢するという話に反するかもしれないが、シーズン序盤、ファン・ハール監督は、テンポの良いパスサッカーの体現に努めた。だが、プレミアリーグならではのフィジカルコンタクト、球際の強さに翻弄され、結果を出すことができずにいた。
すると、その状況を受けたファン・ハール監督は、自身の目指すサッカーをあっさりと切り捨てたのである。当初構想外であったフェライニやアシュリー・ヤングらを起用し、フィジカルとクロスを武器としたチーム作りに切り替えた。結果至上主義のサッカーに徹することで、徐々に勝利が伴っていった。指揮官は、理想的なサッカーよりも現実的なサッカーを選択したのだ。
だが、それでもすべてを切り捨てたわけではなかった。負傷離脱を強いられていたMFマイケル・キャリックの復帰により、守備の安定化と共に自陣からの効果的な縦パスの供給が可能になった。マンUは、キャリックの復帰戦となったリーグ戦第11節クリスタル・パレス戦から怒濤の6連勝を成し遂げている。キャリックの存在が、ファン・ハール監督の戦術面に大きなプラス要素をもたらすことになった。
さらに、加入当初はボールを持ってプレーしたがるMFアンデル・エレーラに対し、シンプルな球離れを意識するように徹底したことで、そのゲームコントロール力を開花させ、中盤の要にまで成長させた。ファン・ハール監督は、バイエルン・ミュンヘン時代にもMFトーマス・ミュラーの才能を引き出した経験などを持ち、育成面でもその手腕が評価されている。マンUでもその持ち味を随所に発揮しているようだ。
このように、戦術面や育成面の哲学を徐々に盛り込んでいくことで、目指すサッカーを100%体現することは叶わなくとも、勝てるサッカーをチームに浸透させつつあることは間違いない。
ファン・ハール監督は、記者会見で度々、自身の哲学について口にする。戦術的な哲学、選手育成の哲学、その他にも様々な哲学を抱いている。だが、最も大切にしている哲学は「勝利のためなら哲学をも捨てる」哲学だということを世に知らしめた。来季2年目を迎えるファン・ハール政権は、近い将来、オールド・トラッフォードに再び栄光をもたらすことになるかもしれない。
【了】
城福達也●文 text by Tatsuya Jofuku
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images