Jの頂きを目指して ジュビロ磐田の躍進を支えた地道な歩みと名波監督の「イズム」
「性格的に自分は一段一段登るタイプ」
監督は今季、フリーズトレーニング(プレーを止めて指示する練習)を増やすつもりでシーズンに入った。しかし、実際はフリーズする回数はまったく増えなかったという。自分が止める前に、選手が課題に気がついて声をかけるからだ。
「『今のプレーはどうだった?』と訊くと、J2の時は『まあまあっす』という抽象的な答えしか返ってこなかった。でも、今は『あの自由な動き出しが良かった』とか、『このシステムならこうすべき』とか具体的な答えがスパーンと返ってくる。変わったな、と思う」
選手を「息子たち」と呼ぶ名波監督は、彼らの成長をそう評して目を細める。
一方で好成績に緩まないよう、手綱を引き締めてもいる。夏に6連勝をして自信をつけ、第19節の敵地・川崎戦では5ゴールを挙げて勝利。最終戦では往年のライバルにして、名波監督が「目標であり憧れ」とリスペクトを隠さない常勝鹿島アントラーズの胴上げをホームで阻止した。それでも、指揮官は6位という結果ではなく、チームの成長曲線、自分たちの“真の立ち位置”から目を離していない。
「ここで勘違いしてはいけない。それで痛い目にあったチームはたくさんある。一人抜けただけでガクンと落ちる、あるいは慢心で落ちる例は山ほどある。我々はまだまだ力がない。今季は出来すぎのところもある。地に足をつけていかなければいけないし、性格的にも自分は一段一段登るタイプ。そういう意味では、ここが締め時と言えば締め時」
次の試合だけではなく、常に“その先”に焦点を合わせた目標を置いて戦っている名波監督は、来季に向けたテーマをシーズン半ばに決め、取り組み始めている。
就任時は、「攻守の切り換え」「セカンドボールの予測」「シュートへの意識」「コミュニケーション」の4か条を掲げた。その次に、球際、対人の強さを取り戻すために、「さぼらない」「諦めない」「集中を切らさない」という三つの約束事を設定。それが体現でき始めたところへの“上塗り”として、来季は「自分たちは休まず。相手を休ませないこと」の徹底を図る。新しいシステムの導入も示唆しているが、優勝争いを目標に掲げるのは、それらの強化テーマをクリアしてからと明言する。
「自分の口から例えば『トップ3』といったはっきりした目標を言えるのは、今ではない。来年やるべきことをやって、Jを獲りにいく、頂きに向かうぞ、と言える」
シーズンの最後に、名波監督はそう語った。