数字が示すハリルJ船出の真実 過去の「日本式」と決別した成果とは
指揮官が仕掛けた「罠」はデータ上でも証明、日本代表に植え付けられた「原理原則」
次の図は前半と後半それぞれプレーした選手がボールタッチした平均ポジションだ。
この図と一緒に、試合終了後のハリルホジッチ監督のコメントを少しだけ見てみよう。
「高い位置からプレスをかけに行くよう要求しているが、第1ラインと第2ラインがスペースを空けていた。今回はほとんどトレーニングをしていないので、(試合の中でプレスが)弱いところが見つかり次第、グラウンドの横から指を差して、そこを修正した。後半は罠を仕掛けた。我々はブロックを下げたが、これはわざとだ。相手を来させて、スペースを空けた。そしてボールを奪って素早く攻めた。それによって4点取った」
後半からブロックを下げたこと、前線のスペースを空けたこと、岡崎のように中盤で関わってから裏を狙える選手との交代で高い位置で起点となる川又を機能させたことが分かる。低い位置でのブロックと言われ、忠実にラインを下げた初招集の昌子のプレーも含めて、監督のコメント通りの現象がしっかり図に反映されているのが分かる。
また、試合を通して相手陣内でボールを奪い返した数は12回あったが、前後半に分けてみると前半は8回、後半は4回だった。このデータは、前半は「前から」、後半は「後ろから」奪いに行ったことを意味する。
そのような戦術の変化の結果、シュートの数は前半11本から後半14本に増えている。
監督の言葉を借りれば「それによって4点取った」わけだ。
この短期間に内容が伴った結果を出し、今後の発展のための期待感を持たせたという面では十分な2試合だったと思う。しかしハリルホジッチ監督がこの試合で見せた采配、選手選考の方法、マネージメントは多くのメディアが称賛するほど新しく斬新なものだったのだろうか?
決してそんなことはない。では彼は何を行ったのだろうか。おそらく今までの代表監督は異なる何かを持ち、ある考え方を提示したように思う。
これまで、日本代表監督を選ぶ際の選定理由として常に伝わってきたメッセージは、日本人の良さを理解し、育成年代からトップまで日本式のサッカーをしっかりと行ってもらえる人物であることだった。
そして、日本人の良さを、「規律を守る」、「俊敏性(アジリティ)の高さ」「グループワークが出来る」こととし、Japan Wayを創り上げようとした。
たった2試合だが、ハリルホジッチ監督がまず行ったことは、グループワーク=和の前にまずは徹底した競争原理を持ち込んだことだ。
レギュラーを固定せずに常に競争状態を作ることは再三明言している。そして、「規律を守る≠言われたことをやる」ということではなく、いかに早く効率的に相手ゴールに近づくか、いかに自分たちのゴールに近づけさせないかという原理原則からスタートしているということだ。
規律、俊敏性、チームワークは日本が一番という固定観念からのスタートではなく、ここ最近の傾向をしっかり分析して、対応していこうという姿勢が見て取れる。途中登板という決して簡単ではない状況ではあるが、だからこそ駄目もとという開き直りも出来るはずだ。そういう環境の中、思い切って「過去の思い込み」と決別し本当に強い日本代表を創り上げてもらいたい。それが出来た時、初めて日本人がサッカーをする上での良い部分が見えてくるはずだ。
データ提供:Instat社及びSoccer Magazine ZONE Analyzingチーム
【了】
サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images