神に愛された“悲運の天才”バッジョ 若き日の苦闘と灼熱のアメリカで散った夢

 

満身創痍の英雄が背負った十字架

 この交代の際にバッジョが「狂っている」とつぶやいたことも、大きな論争になった。しかし、イタリアの復活をもたらしたのもまたバッジョだった。

 苦戦を強いられたグループリーグをやっとの思いで3位で突破すると、決勝トーナメント1回戦のナイジェリア戦では0-1と敗色濃厚な後半43分に、わずかボール1つ分しかないシュートコースに同点ゴールを流し込み、延長戦でもPKを決めた。続く準々決勝のスペイン戦でも決勝ゴール。準決勝のブルガリア戦では2得点を挙げた。右膝の痛みと戦いながらプレーするバッジョに導かれたイタリアは、気がつけば決勝でブラジルと対戦する権利を得ていた。

 そして、灼熱のローズボウル・スタジアムで迎えた決勝戦は、双方とも120分間で得点できずにPK戦へ。しかし先攻のイタリアは、初戦で負傷してニューヨークで手術を受けるという荒療治から決勝で復帰したバレージが1人目のキッカーを務めるも失敗。その後、双方が1人ずつ外し、4人目を終えてスコアはイタリアから見て2-3。外せば負けの5人目のキッカーに立ったのはバッジョだった。

 しかし、いつも通りの助走から、いつも通りに蹴ったはずのキックはクロスバーの上へ。傷心のバッジョは「どうしてあんなキックになったのか分からない」とこぼし、地元イタリアでは非難も浴びた。鮮やかなプレーで世界中のサッカーファンの心に残りながら、そのキャリアの前半は悲劇的なエピソードに溢れていた。

(後編へ続く)

【了】

フットボールゾーンウェブ編集部●文 text by Football ZONE web

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

 

 

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