ハリルが否定した日本の「ポゼッション信仰」 強豪国に勝つために必要な要素とは?
育成段階のポゼッションは否定せず
カウンターアタックでも、相手とのデュエルには勝たなければならないが、守備での1対1や空中戦、セカンドボールの争奪戦といった様々なデュエルがあるなかで、攻撃時のスペースがあるなかでの1対1というデュエルは、日本人選手にとって最も相手に勝てる可能性が高いものだ。ボディーコンタクトを避けて、シュートへ持っていくことも容易にできるかもしれない。引いた相手をこじ開けるより、速攻の方がゴールの可能性を高められるというのは自明である。
だから日本にとってポゼッションは重要ではない、デュエルこそが決め手である――ここまで説明してくれれば、もちろん強豪国に勝つためには運が必要になってくるものの、ハリルホジッチ監督の話は納得できる。
長期的には、このまま運任せでいいのか、それともボールを70%握ったうえで、相手に引かれても崩せる“裏付け”を手にして強豪国を倒しにいくのか。後者を選択するなら、ポゼッションできる能力は必須だ。
ポゼッションしていれば自然に相手が崩れるわけではないので、相手に引かれても崩せるという裏付けを手にすることが最優先だが、それでも相手のチャンスを減らすためにはボール支配率は必要になる。だから「ポゼッション信仰」に意味がないのは当然として、育成段階でのポゼッションを否定してはダメなのだ。
つまりハリルホジッチ監督の話は育成への提言としては底の浅いもので、影響力のある代表監督が公式会見の場であえて口にする意味が果たしてあったのか、疑わしく思っている。単なる「ポゼッション信仰」に現場が陥っているのなら目を覚まさせる効果はあるのかもしれないが、むしろ問題は日本の育成現場もハリルホジッチ監督も、引いた相手を崩せる“裏付け”を示せていないことに尽きるのではないだろうか。
【了】
西部謙司●文 text by Kenji Nishibe
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images