友・田部和良に捧ぐ 人生という名の試合に最後に勝利したことを祈って

意識がなくても「サッカー」という言葉に反応

 そして4月初旬、さらに回復した体調で志半ばで戻ることになったベトナムの関係者に挨拶に出かけた。皮肉なことに、ベトナムで崩した体調をきっかけに容態は徐々に悪化していった。

 5月1日脱水症状が治まらずに入院。

「心配かけて悪いな。ベトナム以来体調が悪い。でも沖縄へは戻る予定だよ。明日病院へ行ってくる。」

 これが彼と直接した最後のやり取りだ。そして同6日の朝、前日夜から容態が急変し非常に危険な状態であるという一報を受けて病院に駆け付けた。友人たちの呼びかけに答えようとする姿。奥さんが何とか水分を取らせようとするお茶を必死で飲み込もうとする姿。トルシエの言葉を思い出したのだろう。その言葉の通り彼は試合を諦めず闘っていた。

 5月7日、8日とサッカーを通してつくりあげた多くの友人がお見舞に訪れた。

 奥さんが言った。

「意識がほとんど無い時でも〝サッカー“という言葉には反応するんですよ」

 もしかしたら奇跡が起こるかもしれないという願いもむなしく5月9日早朝4時55分、その瞬間は誰とも会うことなく静かに田部は早過ぎるその生涯を閉じた。

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