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友・田部和良に捧ぐ 人生という名の試合に最後に勝利したことを祈って
異国の人々を驚かせた情熱と粘り強さ、そして、「しょうがない」の哲学
信頼していた市からの財務諸表はとんでもなくずさんだった。代理人と称する人たちが何人も登場して、それぞれ好き勝手に話を進めようとする。ランチを挟んだ昼間のミーティングでは、ワインが何本も空くまで延々と話し続ける。日替わりの買収額――。考えられないほど多くの障害を、田部は異国の地の人を驚かせるほどの情熱と粘り強さで乗り越え、困難なプロジェクトを成功させた。
グルノーブル・フット38のサッカーを理解するために、身振り手振りで監督とコミュニケーションを取り、強化部長とけんかさながらに議論を続けた。練習を見に来るサポーターたちに、覚えたてのフランス語で温かく、そして一生懸命に語りかけた。それが彼のフランスグルノーブルでの生活のスタートだった。
そうして自分がクラブの一部になったタイミングを見計らい、日本人選手の補強に取り掛かった。それにより、大黒将志、梅崎司、伊藤翔らが欧州でのプレーの機会を得た。トップチームの補強をする一方、日本のジュニアユース年代のチームを招き、サッカーだけでなく文化、環境等の貴重な体験を積ませるサポートをした。サポーターにモバイルコンテンツを提供する事業では、キャプテン翼の原作者・高橋陽一先生にチームのキャラクターを書き下ろしてもらってクラブをブランディングし、漫画の人気が高いフランス人を驚かせたものだった。
フランスでの生活が安定してきた07年、一時帰国した田部と会った。
「少し前にクラブの渡辺(和俊)会長にアウトだって言われた。突然だったけど、渡辺さんが決めたんだからしょうがないよな」
彼の「しょうがない」は決断した人へのリスペクトと、前だけを見つめて生きている自身の哲学だったのだと思う。