増加するジュニア世代の海外挑戦 その裏に潜むリスクとは

 

リスクが高い18才以下での海外挑戦

 

 今冬の高校サッカー全国選手権は、石川県代表の星稜高校の優勝で幕を閉じた。熱戦が繰り広げられる中、準決勝に進出した流通経大柏のDF小川諒也など何人かはJリーグのクラブ入団が決定している。

 では、この大会を戦った選手たちが主にプロに進むのだろうか? Jリーグクラブもそれぞれ下部組織を持っているだけに、そちらの選択肢が有力と言えるだろう。

 そしてもう一つ、10代前半での海外挑戦を選ぶケースも増えつつある。

 近年、日本人少年はFCバルセロナ、レアル・マドリーなど欧州のトップクラブに続々と渡っている。幼くして海を渡ることで語学習得の壁は低くなるし、経験は刺激になるだろう。なにより下部組織を上がっていけば、夢のトップチームがその先にある。

 しかしそれを“大学のエスカレーター式”のように捉えると、痛い目に遭う。語学の壁。モラルの違い。外国人としての差別。自分の足で階段を駆け上がらないといけないし、邪魔が入ったり、階段が抜け落ちていたりすることもある。

 18才以下で海外挑戦することは、リスクの方が高いだろう。

 

玉乃淳も以前、Aマドリードユース時代のストレスを告白

 

 日本人は精神的熟成が欧米人よりも遅い。インタビューしても、語彙力や自己表現力の点で雲泥の差がある。日本人として物事を考える、アイデンティティが10代前半では熟していない。そのまま海外暮らしをすると、現地の生活、プレースタイルに適応しようと無理をするか、投げ出してしまう。前者は見込みがあるが、例えばスペインでスペイン人のように振る舞うことは心を疲弊させ、アトレティコ・マドリーのユースに在籍していた玉乃淳は、そういう自分にストレスを感じていたことを告白している。

 順応したと感じた途端、日本人としての核の欠如に気づかされてしまう。精神的に立ち戻れるアイデンティティは不可欠である。そうやって困難に立ち向かい、突き進んでいくことができる。

 リオネル・メッシは13才で海を渡ってバルサに入り、大きな成功を収めた。特筆すべきは入団前も後も、そして今も「アルゼンチン人選手」としての闘争心やプレースタイルを強く示している点だろう。軸がぶれていない。彼はアルゼンチンフットボールの骨格にバルサの選手としての肉付けをしたのである。メッシの場合、言語習得の必要がなかったことも負担を減らした(南米選手が欧州ラテン語圏で適応するのはスペイン語、ポルトガル語、イタリア語が類似した言語である利点がある。日本人はハンディを背負う)。

 もちろん、ユース年代の海外挑戦がすべて否定するべきではない。しかし、リスクは承知するべきだ。なぜなら、虎穴に入らずんば虎児を得ず、という意気込みとは関係のない危険も潜む。例えばバルサの久保建英君は、「18才未満の外国人選手の獲得は国際移籍で原則禁止」というルールに抵触し、突然、試合出場を制限されてしまった。階段は踏み外してももう一度挑めばいいが、取り外されてしまったら……。

 本田、岡崎、内田らは、日本で日本人として成熟してから世界に挑んでいる。焦る必要はない。

【了】

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

1972年、横浜生まれ。大学在学中にスペイン・サマランカ大に留学。卒業後、スポーツライターとして活動を開始。01年にバルセロナに渡り、トリノ五輪、ドイツW杯などを取材後、06年夏から日本を拠点に人物ノンフィクション中心に執筆活動を展開。主な著書に「RUN」(ダイヤモンド社)、「アンチ・ドロップアウト~簡単に死なない男たちの物語~」「フットボール・ラブ~終わりなきサッカー人生~」(集英社)、「エル・クラシコ」(河出書房新社)、「サッカー『海外組』の値打ち」(中公新書ラクレ)など。最新刊は「おれは最後に笑う~サッカーが息づく12の物語~」(東邦出版)。

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