森保監督だからこそ保った広島の結束 取り戻せなかった「堅守」と「自信」
元広島の高萩も「僕がいた頃はもっと…」
「だから割り切ってやることと、より基本的なことをフォーカスすることをやっていかないといけない。今はいろんなことを言っても、なかなかみんなが同じ絵を描くことができない状況にあるので、シンプルに選手に伝えていかないといけない」
選手たちのプレッシャーを取り除き、自信を持って試合に臨めるように、指揮官はアプローチを続けてきた。現実を直視して真摯に選手と向き合う指揮官がいたからこそ、チームは内部崩壊を起こすことなく結束を保ったが、選手の自信を取り戻すことは容易ではなかった。
これまで結果を出してきたがゆえに、選手は下位に低迷する現実を重く受け止め、「勝たないといけない」「失点してはいけない」と力んで試合に臨む。そんなメンタリティーでは、広島が誇る連動性あふれるサッカーを体現することは至難の業で、ピッチの至るところでミスが頻出し、守備陣の負担を大きくしてしまう悪循環が続いた。
0-1で敗れた第9節のFC東京戦後、かつてのチームメイトだった高萩洋次郎は言った。
「ちょっとミスが多すぎる。あれでは怖くないし、僕がいた頃はもっと楽しんでいた」
冒頭の森保監督の言葉の真意はこうだ。
優勝争いは選手が自信を持ってプレーできるが、残留争いは選手が自信を持ってプレーできなくなる。だからより難しい――。
新しいチャレンジが実を結ばず結果が出ないことで自信を失い、攻守において本来持っている力を出すことができなくなり、前半戦を終えて2勝4分11敗の17位に沈んだ。第17節の浦和レッズ戦は敵地で2点を先行されたものの、後半に怒涛の反撃を見せて3連続得点で逆転に成功したが、タイムアップの笛が鳴った時には再逆転を許して3-4で敗れた。
自信を持ってゲームをコントロールし、勝利を手繰り寄せてきた広島の姿は見る影もなく、指揮官が責任を取って退くしかないところまで転落してしまった。
【了】
寺田弘幸●文 text by Hiroyuki Terada
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images