誰もが不満を示さなかったリバプールの「采配ミス」

最大限の敬意をもって用意された花道

 マージーサイド・ダービーは両チームにとって、どの試合よりも勝利を渇望し、過密日程の配慮や次節の計算などを一切考慮しない、タイマンの殴り合いだ。

 しかし、今回のダービーは、普段のそれとは明らかに違った。象徴的なシーンは後半11分に起きた。

 前節から戦線復帰を果たしたリバプールFWダニエル・スターリッジが途中交代の準備をしていた。そして、審判が交代対象を示すパネルを掲げた際、そこに記されていた数字は「10」。MFフェリペ・コウチーニョだった。今季低迷していたリバプールを復活させる原動力となったプレーヤーであり、実際この試合でも幾多のチャンスを演出し、攻撃の起点となっていた。

 先発メンバーの前線3枚のラインアップはFWラヒーム・スターリング、コウチーニョ、そして、ジェラードだった。この試合最も輝きを放っていたスターリングを代える選択肢はまずないとしても、交代はコウチーニョが適切だったのか。そう思った観衆も少なくなかったはずだ。

 まして前節でも2点目を演出したスターリッジとコウチーニョは、自他ともに認める相性抜群のホットライン。その2人を共存させるべきだったのは、誰の目にも明らかだった。

 しかし、指揮官自身も、それは承知の上だったのかもしれない。サポーターや交代したコウチーニョも、その懐疑的な采配に誰一人として不満を示そうとはしなかった。その理由は、ただひとつ。

 これまでクラブを支えてきたジェラードに、最後のダービーを戦い切らせてあげたい――。彼のファンならば、誰でも心のどこかでそう願っていたはずだ。それは、指揮官、選手、クラブも同じだったということだろう。

 コウチーニョが抜けたことで、やはりピッチから創造性はなくなってしまい、結局互いにネットを揺らすことなく、スコアレスドローで試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

 戦術という面では、コウチーニョの交代は効果的でなかった。そう結論づけるのが妥当だ。しかし、偉大なキャプテンがその笛をピッチの中で耳にした。その事実は、リバプールにとって勝利よりも大切なことだったのかもしれない。

「マージーサイド・ダービーがすぐに恋しくなるだろうね」

 最後のダービーを終えたジェラードは、試合終了後のインタビューで達成感に満ちた笑顔を浮かべた。コウチーニョを下げなければ、リバプールはより勝利の可能性が高まったことは否定できない。しかし、それを引き換えにしてでも見守るべき花道があった。リバプールが決断したその「采配ミス」は、多くのサッカーファンから拍手が送られたに違いない。

【了】

 

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

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