吉田麻也の現在地 プレミア最少失点クラブでポジションを争う日本人CB
欧州CL出場権を手にできるか、「4位に残り続けようと思った時点でやばい」
昨季のサウサンプトン8位の躍進に、クロアチア代表DFの守備力が貢献したのはいうまでもない。今季、リバプールに引き抜かれるように移籍していったロブレンの実力に関しては、麻也も今季の始めにレギュラー争いについて聞かれて、「昨季はロブレンが抜けていたが、今年は実力が伯仲している」と話し、認めていた。
けれども今季Aマドリードから1年間の期限付きレンタルで移籍してきているアルデルバイレルトの能力も、あのロブレンに負けず劣らず高い。
それは今季のサウサンプトンの失点数を見れば明かだ。これまでのところサウサンプトンの失点は、23試合消化でわずかに『17』。この数字は現時点でチェルシーの失点『20』を押さえ、リーグ最少となっている。
また、昨季38試合の総失点は46で、1試合当りの平均失点は1.21。今季はわずか0.74だから、今のところロブレンが去ってアルデルバイレルトが入った今季の方が断然いい。
この失点数を見れば、今季、現時点で4位と大健闘するサウサンプトンの成績の最大の貢献者は、リーグ最少失点を誇る守備陣だといって過言ではない。
無論、アルデルバイレルトが帰ってくれば、麻也はベンチスタートが濃厚だろう。現在のチーム内序列は明らかに3番目だ。けれどもこれまでに記述したように、サウサンプトンの守備陣は、現在のところプレミア一の数字を誇る陣容。麻也は本当にレベルが高いところで競っているのだ。
それに今では、そんな高度で激しいチーム内競争についても、「プレミアでやるのが夢だった。そしていつかはチャンピオンズ・リーグでやりたい」と語ってさらなる成長を目指す麻也にとっては望むところだという。「正直これくらいのレベルのチームであれば、やはりCBは3人くらいで争うもの」と話し、まず現状を当然と受け止めた上で、「もっともっと上手くなるためにここにいる」ときっぱり。サウサンプトンでのレギュラー争いをばねに、さらなる飛躍を誓う。
確かに厳しい争いだが、麻也の成長の吉兆はもうすでにある。もちろん、クーマン監督からのお墨付きとなった3年契約もそのひとつだ。そして、これほどレベルの高いサウサンプトンの守備陣にもなれながらも「昨シーズンよりは、今季のほうがチームの中に自分がいるという感覚はある」と話す麻也自身の言葉が、なにより明るい兆候だ。
プレミア特有の年末年始の過密日程を乗り越え、スウォンジーという中堅チームが明らかに格下の戦いに徹してサウサンプトンに対抗する今、麻也は「監督は明らかに意識していると思うし、選手も意識していると思う」と話して、チーム内で来季の欧州CL出場権が現実味を帯びた目標となっていることを明かす。
今季のプレミアは、首位チェルシー、2位マンチェスター・Cが抜け出し、今後3位と4位の欧州CL出場権内となる2席を、マンチェスター・U、アーセナル、トットナム、リバプール、そこに麻也のサウサンプトンを加えた5チームで激しく争われることになるだろう。サウサンプトンはそんな名門、強豪の戦いに割り込んでいるのだ。
そして麻也は、そんな上昇気流に乗ったチームの中にいて、「個人的にはまだ15試合あるし、『4位以内にいるんだ』という守りの意識に入った時点でやられる。4位に残り続けようと思った時点でやばい。自分たちの手から(欧州CLが)すり抜けると思う。そんなに甘いリーグではない」と語って、まるでアジア杯敗退の苦渋を反芻するかのような言葉を吐き出すと、「本当に、1試合1試合、かたく、かたく勝っていくしかない。少しでも上へ上へという向上心と、ハングリー精神を持ってプレーしなくてはいけない」と結んで、堅守を基盤にものすごい勢いでプレミア内に下克上を巻き起こしているサウサンプトン選手の気構えをむき出しにしていた。
【了】
森昌利●文 text by Masatoshi Mori
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images