吉田麻也の現在地 プレミア最少失点クラブでポジションを争う日本人CB
アジア杯終了後のリーグ戦で即先発起用、ピッチ上で存在感際立つ
「痛い敗戦でした。気分的にはUAE戦と一緒ですね。押していて、チャンスを作っていたけど、点が入らなくて。う~ん! 抜け出せないね、個人的に……」
去る1月23日、アジア杯の決勝トーナメント初戦となった準々決勝で、楽勝と見られたUAE相手に120分を戦って1-1ドローの上、PK戦で敗退。英高級紙『ガーディアン』は「今大会最大の番狂わせ」と日本のアジア杯敗退を報じたが、このスウォンジー戦も同じような結果になり、吉田麻也の試合後の第一声はUAE戦のフラストレーションをあらためて呼び起こすものになった。
試合前の勝利オッズはサウサンプトン1.9倍に対し、スウォンジーは5倍。ブックメーカーのオッズ上でも明らかにサウサンプトンが格上に位置づけられた試合だった。
ところが結果はシェルビーのミドル一発に泣く形で0-1惜敗。文字通り、この試合で唯一のゴールとなった元リバプールMFが放ったシュートは、スウォンジーがこの試合で記録したたった1本のオンターゲット・シュートだった。
英国ではこういう試合を「It’s football」(これがフットボール)と表現して、明確な実力差があるにも関わらず、番狂わせが度々起こるサッカーの摩訶不思議を語る。まさにこのスウォンジー戦の敗戦は、「これがフットボール」としかいいようがない試合の典型だった。
それはさておき、この試合、麻也のプレーはまずまずだったと思う。試合開始直後、最終ラインでボールをもらって、足元でキープすると、ゆっくりとパス先を探す素振りを見せた瞬間、相手の巨漢フランス人FWゴミスに猛然と突っかけられて、慌ててGKにボールを戻したシーンがあった。そこで「ここはプレミアだ。悠長にやったらだめなんだ」という表情は見せたが、その後は落ち着きを取り戻し、シンプルで正確なプレーを重ねた。
また、手のかかるゴミスのマークもきっちりとこなし、安定感のあるプロの仕事をした。逆をつかれて抜かれそうになった時には故意のプッシュで相手を倒すといった、老かいさも見せた。
結果は確かに0-1惜敗だったが、ポゼッションは63%、コーナーは9-0。シュート数も15対6中オンターゲット6対1という内容で、データ上ではサウサンプトンが圧倒した試合だった。
スウォンジーはボール支配率の勝負は始めから捨て、最終ラインに人数をかけて、そこでボールを奪ってカウンターという格下の戦い方に徹した。
しかし、アウェイ戦とはいえ、中堅のスウォンジーがこれだけ謙虚な戦い方を選んだということは、ある意味これは、サウサンプトンの強さが一時的なものではなく、確たる地盤と根拠がある安定した強さとして、プレミア内でしっかり認識されつつあるということではないだろうか。
その強いサウサンプトンの左CBとして、麻也は87タッチを記録。ビルドアップで時折見せる縦パスのセンスは抜群で、その存在感は堂々たるものだった。
それにそもそも、アジア杯後の英帰国初戦となったリーグ戦に先発したこと自体、大きい。稲本、西沢以来、2001年からイングランドでプレーした代表選手を追って来たが、遠く離れた極東で行われることが多い日本代表戦が、レギュラー争いの大きな足かせになっていることは明らかだ。それまでは試合に出ていたのに、代表戦から帰って来たらベンチというのが日本人選手のパターン。それは去年の夏までマンチェスター・Uにいた香川も例外ではなかった。