欧州クラブで痛感…「日本と違う」 大学No.1の20歳FWが一変、SNS話題の一撃が示した“能力”

筑波大学の内野航太郎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
筑波大学の内野航太郎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

SNSでも話題になった筑波大FW内野航太郎のゴール

 関東大学サッカーリーグ1部・第4節の筑波大vs桐蔭横浜大の一戦で、大学ナンバーワンストライカーの呼び声が高い筑波大のFW内野航太郎が、今季リーグ初ゴールをマークした。

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 決勝弾となったこのゴールは、SNSなどで大きく話題となったゴールともなった。0-0で迎えた後半9分、自陣でボールを持った桐蔭横浜大の選手がカウンターを仕掛けようと低弾道パスを繰り出すと、これが数メートル先にいた主審に当たり、再びその選手のところにボールが戻ってきた。

 その際に戻ったボールをその選手がフリーの状態で触ってしまったことでそのままプレーは続行に。桐蔭横浜大の選手たちがそのまま足を止めるなか、笛が鳴っていないと即座に理解した内野は、自身の目の前にこぼれてきたボールをかっさらいドリブルを開始。桐蔭横浜大もGKが飛び出してコースを切り、DFも1人戻ったが、内野はバランスを崩されて倒れ込みそうになりながら、GKのニアを射抜く右足シュートを放ってゴールに突き刺した。

 このゴールの映像は一気にSNS上で拡散されさまざまな議論が沸き起こり、時には決めた内野へ異議を唱える声もあったが、これは決めた内野を褒めるべきゴールだった。

 周りの雰囲気に流されず、セルフジャッジすることなくゴールを狙った内野の獰猛なストライカーとしての姿勢に加え、一度プレーが完全に止まっている状態で加速することは難しいし、シュートシーンもGKとDFに完全に対応されており、決めるのは簡単ではないシーンだった。それを決めきったのは彼の能力の高さを示す形になったと言えよう。

開幕から3試合ノーゴールも目立っていた“献身性”

 それ以上にあのゴールに至るまでの彼の思考こそが、彼にとってこの初ゴールが非常に意義深く、必然としてつながったという経緯もあった。それは前々節の流通経済大戦と前節の日本体育大戦のことだった。筑波大は開幕戦を4-1で飾るも内野はノーゴールに終わっていた。

 流通経済大戦ではなかなかチャンスが回ってこず、逆に前線からのプレスやトップ下の位置まで降りてボールを受けて周りにボールをわたし、ポストプレーで身体を張ってボールをキープしたりするなど、シュートに至る前のプレーで非常に献身的な姿を見せていた。

 この試合、内野はシュートゼロに終わったが、彼は昨年まで見せていた苛立つ姿を一切見せることなく、90分間チームのために走り抜いていた。

 日体大戦でも彼は同じようにフィニッシュの1つ前のプレーを全力でやっていた。0-0で迎えた20分には、右からのクロスをゴール中央で相手DFを背負いながら受けてボールキープすると、2人目を引きつけたことで完全フリーになった1年生DF布施克真に、鋭い反転から優しいパスを送って、布施の大学初ゴールをアシスト。「あれは内野さんのゴール」と布施が口にしたように、内野の献身的なプレーによる綺麗なお膳立てだった。

 その後もポストプレーや前線からの2度追い、3度追いを当然のようにこなし、ゴールこそ生まれなかったが、2-1の勝利に貢献。チームを無敗の首位に導いた。

「1年生や2年生の頃だったら間違いなく、ふてくされていたと思います(笑)。今、積極的にやっているプレーは、昨年まであまりやりたくなかったプレーだし、ゴールを決めることにしか興味がなかったので」

 彼の言うとおり、昨年までの彼であれば点が取れない、シュートも打てないという状況は受け入れ難く、苛立ちが伝わったり、プレーが雑になったりしていた。

 だが、今年はそれが一切ない。むしろチャンスが来なくても何度も動き直し続け、チャンスを逃しても「次だ」と切り替えて守備や次のプレーに集中している。「メンタル的に大人になりました」と語るその理由を聞くと、リーグ開幕前での経験が大きかったと口にした。

欧州クラブの練習参加で学んだこと

 彼は先月の10日間、鈴木唯人が所属するデンマーク・スーペルリーガのブレンビーIFの練習に参加をして「学べたことは大きかった」と話す。

「サッカーは日本と全然違うと感じました。北欧は長身ストライカーが多いですし、その中でもデンマークは特殊で、ブレンビーは蹴るよりも間でつなぐチーム。3日目くらいから慣れていくと、間で起点となるプレーをした上で、最後に走り込んで自分にボールが返ってくるということをチームでうまく表現することができた。

 今まではゴール前のところだけ、触って点を取るということが強みだし、そこしかなかったと思うのですが、それではブレンビーでは一切通用しない。中盤に降りていって起点を作って、ボールを触ってリズムを作って、チャンスを作りながらゴールを狙っていく。デンマークで起点作りの部分を学べたことは大きかったと思います」

 さらにその前にはアカデミーに所属をした横浜F・マリノスのキャンプにも参加。そこでも古巣への愛情を再確認し、チームのために身体を張る、チャレンジし続ける姿勢の大切さと意味を学んだ。

「僕は筑波大に育ててもらったことは間違いありません。今季、開幕前にほとんどいなくて迷惑をかけた分、僕がチームの勝利のためにやるべきことを全力でやることは当然だと思っています。自分が点を取れなくてもチームが勝つような働きを心がけています」

 その思いは本物だった。同時に彼の中から沸々とこみ上げてくるストライカーとしての本能もあった。

「3試合を終えて、なんというか……。チームが勝てているのはめちゃくちゃ嬉しいのですが、個人としては『そろそろ点を取りたい』という気持ちが心の底から湧き上がってきているのを感じています。もちろんだからと言って、今までやって来たプレーをやり続けることは間違いないし、そこにネガティブな感情は一切ありません。むしろ献身的なプレー、リズムを作るプレーをできた上で点が取れる選手になることができれば、自分はもうワンランク上に行けるんじゃないかというワクワクの気持ちの方が大きいです。そろそろ吠えたいですね(笑)」

 こう力強く話していた3日後に「その時」は来た。いや、その時を自分の力で引き寄せた。

 この1ゴールは筑波大にとっても、彼自身にとっても重要で大きな価値を生み出したに違いない。1年時から注目をされたストライカーが心身ともに成長し、今、名実ともに大学ナンバーワンストライカーにふさわしい存在になろうとしている。

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