稲本潤一が参考にする指導者3人 今季より育成コーチ就任…必要な”信念“「勉強になった」【インタビュー】

元日本代表MFの稲本潤一氏【写真:徳原隆元】
元日本代表MFの稲本潤一氏【写真:徳原隆元】

稲本潤一氏は今季より川崎の育成部コーチに就任

 昨シーズン限りで現役を引退した元日本代表MF稲本潤一氏は、今シーズンからJ1の川崎フロンターレで育成部のコーチに就任した。28年間の現役生活を終え、指導者に専念することとなって3か月「徐々に慣れていっている段階ですね」と言う。(取材・文=河合拓/全3回の1回目)

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 監督や同じコーチをサポートしている役割という稲本氏は、現役時代に様々な監督の下でプレーしてきた。自身が指導をする立場になってから、参考にしている指導者を聞くと、Jリーグでも采配を振るった3人の指揮官の名前を挙げた。

「日本に帰ってきてからだと、例えば風間(八宏=現南葛SC監督)さんとか、ミシャさん(ミハイロ・ペトロヴィッチ前札幌監督)だったりは、やっぱりすごく攻撃的なチームを作る監督でしたし、ブレずにずっとやっていたっていう印象がすごくあります。我慢のところもあるとは思いますけど、やっぱり自分の信念ではないですけど、それを貫くことも大事なのかなと思います。あとは相模原で一度、三浦文丈さんがガラッと戦術を変えたらJ2に昇格したこともありました。いかに選手を見て、どう判断するか。いろいろな監督を見て勉強になりました」

 稲本氏は現役時代、川崎フロンターレと南葛SCという2つのクラブで風間監督の指導を受けた。また、札幌時代にはペトロヴィッチ監督の下でプレーしている。2人に共通することとして、稲本氏は選手の持つ技術を高めてくれることを挙げた。

「自分も技術は絶対に必要だと思って、プロサッカー選手をずっと続けてました。風間さんやミシャさんは、それをより具体的にもっと細かく指導してくれましたし、それを戦術に落としてきていました。普段意識していることでも、より求められることが高くなったり、細かくなったりすると、さらに意識するようになります。それで、よりうまくなったなという印象を受けました。その感覚は僕だけではなく、全員にあったと思います」

 風間氏とペトロヴィッチ氏は、多くのタイトルに恵まれたわけではない。それでも「サッカーがうまくなりたい」という願いを持つ選手たちの思いを実現させているからこそ、指導者として長くキャリアを続けることができ、選手たちに慕われ続けているのだろう。

プレミア初の日本人選手は2022年から3シーズン南葛でプレー

 プレミアリーグでプレーした初の日本人選手だった稲本氏だが、帰国後はJリーグの舞台だけに留まらずに関東リーグ1部の南葛SCでもプレーした。2002年にはバロンドール候補の50名にも入っていた稲本氏が、関東リーグ1部までカテゴリーを落としてプレーを続けたのは驚きでもあったが、南葛SCには稲本氏以外にも、MF関口訓充、MF今野泰幸、DF伊野波雅彦と、多くの元日本代表選手や元Jリーガーがプレーしている。彼らを惹きつけるものは、何なのか。

 2022年から3シーズン、南葛SCでプレーした稲本氏は、「クラブの体制であったりだとか、理念であったりだとか、目指すべきところがしっかりしていると思います。また、上にあがっていきたいっていうクラブ全体のモチベーションも、すごく高いなと思いますね。23区に初のスタジアムが建ったりとか、GMの交渉が上手というのもあるでしょう」と、複数の理由があるとしつつも、最大の理由は明確だという。

「でも、何よりも『南葛SC』っていうブランドですよね。やっぱり高橋陽一先生が描き続けている『キャプテン翼』を、僕たちは見て育ってきましたから。そのなかに出てきた南葛SCでJリーグを目指すっていうのは、すごく夢があることなんじゃないかなって、僕はクラブに入る時に思ったんです。その夢を実現させるために、下のカテゴリーからやっていく作業というのは、ものすごく貴重な経験だろうなと思い、僕は加入しました」

「関東1部からJFLに上がるのが一番厳しいなって思う」

 残念ながら稲本氏が在籍している期間のうちに、クラブは関東リーグ1部からJFLに昇格することはできなかった。多くの元日本代表選手や元Jリーガーが在籍していれば、足踏みすることはないかと思われたが、過去の経歴などは「関係ない」と、稲本氏はJFL昇格の難しさを語る。

「やっぱり人工芝でプレーすることそのものもですが、人工芝の質も全然グラウンドによっても違うんです。特に南葛には『ボールはともだち』というフィロソフィーがあって、パスをつないでいく戦い方がメインにあるのですが、対戦相手は守りを固めて放り込んでくるチームが多い。そうなると難しいですし、積み重ねが必要だと思います。昨年から風間監督が来て、できるようになって1年が経って、今年は多分、すごく良いチームになっているので楽しみです。チーム力は、間違いなく上がっていると思うので。多分、関東リーグ1部からJFLに上がるのが、一番厳しいんだろうなって思うんです。そこを上がることができれば、きっとJには行けると思いますし、昇格を実現するのもそんなに遠くはないと思ってるので、頑張ってほしいなってすごく思います」と、自身が見た夢の実現を南葛の後輩たちへ託した。

 今、JリーグはJ1からJ3まで各20クラブが所属している。この60クラブに加えて、Jリーグ入りを目指すクラブが地域にもたくさんあり、高校や大学を卒業してからもプレーを続けられる環境ができつつある。「それこそ僕が10代の頃とは、全然違いますよね。当時はクラブが全然なかった。今はサッカーをやりたければ、ずっとやれる環境が日本にはできつつありますし、すごくサッカーが文化になって、根付いてきているんだなと南葛に行って本当に思いました」。

 選手時代、プレミアリーグから関東1部リーグまで幅広い経験を得た稲本氏は、指導者としてどのような将来像を描いているのか。「A級、S級のライセンスも取りに行きたいと思っているので、ユースを指導する今をどれだけ良い時間にするかが、自分にとって大事だと思っています。28年、現役をしていて、指導者になりましたが、やっぱり指導は全くやることが違います。この指導する楽しみを見つけていくこと、成功体験と失敗体験の繰り返しだと思うので、それを力に変えてやっていき、将来的には、監督になりたいなと思っています」と、今後のビジョンを語っている。

(河合 拓 / Taku Kawai)



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