父親は浦和バンディエラ…引退に号泣「受け入れられなくて」 目を奪われた2世の逸材

三菱養和SCユース1年生の平川僚謙、父親は浦和一筋17年の平川忠亮氏
プリンスリーグ関東2部・三菱養和SCユースvs前橋育英Bとの一戦。2-0でリードした状態で後半からフォワードとして投入された44番に目を奪われた。
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とにかく速いし、よく走る。前線から何度もスプリントを繰り返し、相手GKやDFライン、ボランチにもプレスをかける。攻撃では果敢にDFラインの裏のスペースを狙い、フィジカル面で負けてしまうシーンも多かったが、高速スプリントでゴールに迫り、相手が嫌がるプレーを見せていた。
メンバー表を見てみると44番は1年生MF平川僚謙。どうりで線が細く、フィジカルに秀でた前橋育英BのDFに当たり負けしていたのも頷ける。だが、彼の何度も走り抜く姿は自然と目が行ってしまう。
試合終了間際にはセンターライン付近で平川はボールコントロールミスからボールを相手に奪われてカウンターを受けてしまう。右サイド深くまで突破されたが、クロスを上げる際に2人の選手がスライディングでブロックに入った。その内の1人が平川だった。
クロスは平川の足に当たり、ピンチは凌いだ。自分のミスは自分で取り返すと言わんばかりのスプリントからのブロックは一気に心を揺さぶられた。
2-0の勝利後、平川はほかの部員たちと一緒にコーナーフラッグやベンチなどの片付けをしていた。たまたま彼が通りかかった時に先輩選手から「僚謙、すごいな! 本当によく走るよな」と言われると、彼は満面の笑みで「いやいや、僕はそれしかできないし、走りたいので」と答えていた姿に、一気に話が聞きたくなり、片付け後に取材をした。
「僕はまだまだ足元の技術が足りないし、課題が多いのですが、その中で走ることは自分の長所だと思っています。もともと走るのが好きなんです。幼少期からずっと走っていましたし、ガムシャラにボールを追いかけることが純粋に好きなんです」
今もサッカーを始めた頃の気持ちを大事にしていることが伝わる。さらに「何より僕はかなりの負けず嫌いなので、誰よりも走りたいし、誰よりもボールに触りたいんです」と目を輝かせる。
なぜここまでまっすぐな気持ちを持ち続け、プレーに反映させられているのか。その答えは彼の父親にあった。
「お父さんが浦和レッズでプレーしていて、お父さんのように技術を身につけながら、長所を生かしていずれかは超えていかないといけないと思っているんです」
彼の父は浦和一筋17年の平川忠亮氏。清水商業高時代から爆発的なスピードと高いスキルを駆使し、サイドの名手としてプロの世界で名を馳せた。引退後は浦和でコーチを長年務め、昨年までは浦和ユースの監督を務め、今年からはJ3のFC琉球の監督を務めている。
「お父さんは足が速いし、プレー中も本当に落ち着いてうまい。クロスも正確に上げ切りますし、ミスが少ない選手。僕も見習って身につけていきたいとずっと思って練習しています」
今も何かあった時はすぐに連絡し、アドバイスをもらっている。「高校生になって『もっと自分にベクトルを向けることもそうだし、仲間に伝えるべきことはきちんと伝えて、お互いがいいようにできるようにチームとしてやっていきなさい』と言われています」と常に信頼する父親の言葉を大切にしている。
「お父さんが引退すると聞いた時は本当に悲しくて、辛かったけど、お父さんに『次はお前がしっかりとやる番だぞ』と言われて、よりサッカーをする意味、覚悟が固まりました」
引退を本人から告げられたのは、彼が小学4年生だった2018年の11月。J1リーグ最終戦の1週間前、自宅で机に向かって勉強をしていると、父から「もう引退するんだ」と伝えられ、勉強する振りをしながら涙が止まらなかったという。
「僕はまだまだ続けるものだと思っていたし、契約を延長するなどの話も聞いていたので……。あまりに突然すぎたし、お父さんがプロサッカー選手ではなくなるという事実を最初は受け入れられなくて、いろんな感情が込み上げて号泣してしまいました」
その中で父からあの言葉を託してもらった。涙が枯れた時には、もう決意は固まっていた。
「僕がやらなくちゃ」
走ることは自分がサッカー選手として生きて行くための証明の術であり、憧れの父を越すための大事な武器。何より純粋にサッカーが楽しいと思わせてくれる大事な魔法でもある。だからこそ、彼は走ることに誰よりも貪欲で、誇りを持っている。
「攻守において予測して、守備面では相手のパスのインターセプトを狙ったり、チームを助けるプレスをかけたり。攻撃面では裏抜けや、奪ってすぐにスピードに乗ったドリブルを仕掛けてから、突破したり、スルーパスを狙ったりとやるべきことを広げています。
今年はプリンス関東2部で開幕戦から途中出場で使ってもらって、今日は前節よりもプレー時間は長かったからこそ、もっともっとボールに絡みに行ってシュートを打ちたかったし、チャンスを作りたかった。後一歩のところまで行っても、ゴール前の肝心なところでバランスが崩れたり、シュートを打ち切れなかったりするので、そこは自分の課題として見つめ直していきたいと思います」
その瞳は澄んでいた。「平川忠亮の息子」ではなく、「生粋のスピードスター・平川僚謙」としての道を走り抜くべく。彼は父の言葉を心に抱きながら、その目をまっすぐ前に向けている。
(FOOTBALL ZONE編集部)