転機となった“青空会談”「長い時間話をした」 見つけた最適解…浦和が浮上した4つの理由【コラム】

リーグ戦は直近4試合で3勝1敗と波に乗っている
現在9位の浦和レッズは、4月13日に国立競技場で行われたFC町田ゼルビア戦で2−0の勝利を収めると、ホーム5連戦の初戦となった16日の京都サンガFC戦でも2−1で勝ち、2連勝を飾った。序盤戦から苦しい戦いを続けてきたが、リーグ戦直近4試合で3勝1敗。クラブワールドカップ開幕まで2か月を切った段階で、ようやく波に乗るきっかけを掴みかけている。
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選手起用に関して大きな転機となったのが、左右サイドバック(SB)のスタメン変更、怪我から復帰したMF渡邊凌磨のトップ下起用、MFサミュエル・グスタフソンの主力固定、そしてMF松尾佑介の1トップ抜擢だ。
サイドバックに関しては、右SBの石原広教は4月2日の第8節・清水エスパルス戦から、左SBの長沼洋一は同6日の第9節・アビスパ福岡戦からスタメンで起用された。右サイドはキャプテンの関根貴大が開幕戦から7試合スタメンだったが、守備面に不安があり、失点に絡むシーンも多かったことからマチェイ・スコルジャ監督が苦渋の決断。石原はここまで、町田戦でMF相馬勇紀を封じるなど、守備面で重要な役割を果たしている。
一方の左サイドの長沼も守備で評価を高めた。福岡戦に関してはベンチ外となった荻原拓也のコンディションが影響したと見られるが、福岡のストロングである右ウイングバックの岩崎悠人と右シャドーの紺野和也を相手に、素晴らしい守備を見せた。この試合以降、指揮官は長沼をスタメンで起用。ビルドアップの安定感やアタッカー陣のサポートも含めて、序列を上げたと見られる。
続く町田戦と京都戦で、長沼はマテウス・サヴィオと左でコンビを組み、相手のサイド攻撃を封じながら、タイミングの良い攻め上がりでチャンスを作るなど、試合を重ねながらパフォーマンスを上げているのが印象的だ。長沼自身はマテウス・サヴィオにもっと高い位置で攻撃にパワーを使わせてあげたいと考えているようだが、それでも長沼が、幅広く攻撃に絡むタイプのマテウス・サヴィオを躍動させるトリガーになっていることは間違いない。
渡邊に関しては開幕戦からボランチで起用されていたが、8節・清水戦の後半途中からトップ下に入ると、今シーズン初めてサミュエル・グスタフソン、安居海渡、渡邊の同時起用が実現した。
続く福岡戦はボランチでフル出場したが、国立の町田戦でスコルジャ監督は渡邊をトップ下でスタメン起用し、ボランチには安居とグスタフソンを並べた。この試合を前に、全公開された4月9日のチーム練習後に、スコルジャ監督とグスタフソンが30分にもおよぶ青空会談を行ったことが話題になった。

指揮官とグスタフソンによる“青空会談”が転機に
スコルジャ監督としてはグスタフソンの能力を認めた上で、チームの中でやってほしいタスクを説明したと見られるが、グスタフソン側からの主張に指揮官がしばらく耳を傾ける様子もあった。町田戦後、スコルジャ監督は「サミュエルをスタートから使う理由はいくつかありました。今週の公開練習に来られた方は、練習後に私がサミュエルとピッチ上で長い時間話をした姿を見ていると思います。そこでは、この町田戦でスタートから行くこと、そこでどういったパフォーマンスを期待しているか、という話をしていました」と語っている。
その全容が明かされることはないかもしれないが、町田戦に続き、フル出場で勝利に貢献した京都戦に向けても、有意義な話し合いであったことは間違いない。グスタフソンは中盤のバランスワークやセカンドボールの回収、守備のデュエルでも奮闘しながら、攻撃面では長短のパスで違いを見せて、浦和の前向きな攻撃を助けた。グスタフソンが安居と共に中盤で安定感をもたらすことにより、ここまで3得点1アシストの渡邊が、高いポジションで持ち前の運動量や攻撃センスを発揮することができる。
もうひとつ、スコルジャ監督にとって大きな決断となったのが、松尾佑介の1トップ起用だ。シーズン前から怪我で出遅れていた松尾だが、第2節から6試合続けて途中から試合に出る形で、コンディションを高めてきた。第8節の清水戦から2試合は左サイドハーフでスタメン起用されたが、清水戦と福岡戦ともに途中からチアゴ・サンタナと2トップを組む形となり、精力的な守備と積極的な飛び出しで、これまで浦和の前線に足りなかったダイナミズムをもたらした。
そして町田戦は1トップでスタメン起用されると、ロングボールを得意とする相手の3バックに激しくプレッシャーをかけて、センターバックのマリウス・ホイブラーテンやダニーロ・ボザが跳ね返し、セカンドボールを安居やグスタフソンが回収するという守備のメカニズムを成り立たせた。そして攻撃面では、効果的な裏抜けを狙いながらライン間で縦パスを受け、2列目の3人を前向きにするという松尾ならではの効果を生み出した。
もちろん、こうした松尾の起用にはチアゴ・サンタナがコンディションを崩したことも影響したはずだが、町田戦と京都戦で得た好感触を放棄する理由はなく、おそらく4月20日の横浜F・マリノス戦でも、松尾の1トップは継続すると予想される。ここまで3得点のチアゴ・サンタナが復帰となれば心強いが、松尾が果たしている守備タスクと攻撃面の効果を考えれば、一旦はジョーカーとしての役回りになる可能性もありそうだ。
4-2-3-1をベースとするスコルジャ監督のシステムにおいて、2連勝を飾った町田戦と京都戦の布陣が浦和の”最適解”になりつつある。だがこれだけ好調が続けば、相手も分析、対策をしてくるのがJ1の怖いところでもある。ホーム5連戦の残り4試合を含む、ここからの戦いで1つの強みとしながら、あらゆる状況に対応するべくオプションを増やしていくことが、クラブワールドカップはもちろん、悲願のリーグ優勝を目指すシーズンを通しての躍進にもつながっていくはずだ。

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。