絶対的エース流出も…首位独走の理由 「J2では断トツ」元日本代表が絶賛する武器【見解】

【専門家の目|太田吉彰】千葉が8勝1敗とスタートダッシュ成功できた要因
第9節終了時のJ2では、ジェフユナイテッド千葉が8勝1敗で、頭一つ抜け出す形となっているが、2位のRB大宮アルディージャから8位のサガン鳥栖までは勝ち点差「4」と混戦になっている。現役時代にジュビロ磐田やベガルタ仙台で活躍し、今シーズンはスポーツチャンネル「DAZN」などで試合の解説を務めている元日本代表MF太田吉彰氏に、千葉がスタートダッシュを成功できた要因を聞いた。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
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Jリーグのオリジナル10のひとつである千葉だが、2010年にJ2に降格してからは一度もJ1に復帰できていない。開幕9試合で頭一つ抜け出した今シーズンは、15年目にして迎えたJ1復帰への大きなチャンスのシーズンであり、実現できれば秋春制に移行する2026-27シーズンもJ1クラブとして迎えることになる。
シーズン開幕前には、2024シーズンに23得点を挙げていたFW小森飛絢がベルギー1部シント=トロイデンに移籍。得点力への不安が指摘されていたが、ここまでの9試合では22得点と1試合平均2点以上のゴールを叩き出している。エースを失いながらも、リーグ最多得点を挙げて首位に立てているのはなぜか。
太田氏は「小林慶行監督のもと、ブレずに戦ってきて自分たちのスタイルをしっかり構築できたことは大きいですね」と、2023年にコーチから監督に就任した小林監督の志向するサッカーがチームに浸透したことを要因の一つに挙げた。
そして「スピーディーなサッカーをしていますから、ものすごく前線からのプレスが速く、両サイドもかなり突破力があります。ボールを奪った後の質も高く、そこからの攻撃もかなり速い。その戦い方を実現するために、全選手がハードワークをします。そういったところは、すごく良いですよね」と、小林体制3シーズン目を迎えている千葉の戦いぶりを分析した。
また、多くのゴールを重ねられている理由は、この「ボールを奪った後の質」にあると言う。
「その質というのは、シンプルに奪った直後に奪い返されてはいけないというのがセオリーだと思うのですが、千葉は奪ったあとにボールを後ろに下げるのではなく、奪ったあとも前線の選手を常に見ているんです。ファーストプレーでボールが前を向いている選手、前線の選手に出るからこそ、スピーディーな攻撃ができて、当てたあとの動き出しもものすごく速い。全選手が『スピーディーに』という共通認識を持って戦えていると感じます」
「良い意味でのポジション争いもかなりできている」
小森という違いを出せるタレントがいなくなったが、それも良い方向に作用したと分析する。「絶対的なエースがいなくなった分、逆にチーム全員で点を取るという意識がすごくあるのかなと思います。また、ポジション争いも激化していますよね。直近の藤枝戦(3-2)ではカルリーニョス・ジュニオ選手が2得点を挙げました。良い意味でのポジション争いも、かなりできているなという印象です」と、主力離脱のピンチをチャンスに変えられていると指摘した。
そして「スピーディーな得点が多いけれど、ボールをつなげないかと言えば、そんなこともありません。藤枝戦では、横山選手、田口選手を中心にボールをかなりキープしながらチャンスを見て背後の動き出しを使ったり、3人目の動き出しから中央突破をしたり、いろんなバリエーションがありました。確かにカウンターからの得点は多いですし、そういうチームとも見れますが、ここ数試合でまたバリエーションが増えているのかなと思います」と、チームが発展途上でもあると話し、相手に応じて戦い方を変える柔軟性もあると続けた。
「例えば磐田はボールをポゼッションするチームですから、彼らとの試合では前からプレスに行っている印象がありました。ただ、藤枝戦を含め、その他の試合ではかなりコンパクトにものすごくまとまってチーム全体で戦っていますよね。ゴール前まで攻め込まれる回数は決して少なくはないですし、シュートを打たれる数も多いほうだと思うんです。でも、ゴール前では身体を張れます。全選手が体をシュートブロックに入っていました。コンパクトに戦えているからこそ、人に行けているんじゃないかなと思います」
2010年以降、J2での戦いが続いている千葉だが、今期は昇格も狙えると太田氏は期待を寄せる。
「順位が非常に良くて、モチベーションが高いと小林監督も言っていました。良い意味でのポジション争いができていて、調子に乗るような選手もいない。全選手が同じ意識でプレーできています。『ジェフといえば』というサッカーができてきていますが、それは町田であったり、神戸にも共通していることです。昨シーズンからいい形ができているなと思っていましたが、J2では断トツの速さがあります。良い方向に行っていても、監督もまだ全然満足していなかったのでそれも良いことだと思います」
「このタイミングで上がっておかないとという思いは、どのチームにもあると思います」と太田氏が言うように、今シーズンの終了後にJリーグは、秋春制への移行期に入る。1年半にわたってJ1に昇格する道は閉ざされることになるのだ。オリジナル10で一度降格してからJ1に戻れていないのは千葉だけ。節目となるシーズンを前に、今シーズンこそJ1復帰を果たせるだろうか。
(FOOTBALL ZONE編集部)

太田吉彰
おおた・よしあき/1983年6月11日生まれ、静岡県出身。ジュビロ磐田ユース―磐田―仙台―磐田。J1通算310試合36得点、J2通算39試合4得点。トップ下やFW、サイドハーフなど攻撃的なポジションをマルチにこなす鉄人として活躍した。2007年にはイビチャ・オシム監督が指揮する日本代表にも選出。2019年限りで現役を引退し、現在はサッカー指導者として子どもたちに自身の経験を伝える活動をしている。