戦力と人件費は雲泥の差…最下位の現実 「僕が決めるしかない」25歳日本代表の魂の叫び【現地発コラム】

キールでプレーする町野修斗【写真:Getty Images】
キールでプレーする町野修斗【写真:Getty Images】

キール所属の日本代表FW町野修斗、ドイツ1部で実感「苦しむのは当たり前」

 日本代表FW町野修斗(25歳)がプレーするホルシュタイン・キールは昨季ドイツ2部優勝を果たし、1900年創立のクラブは史上初となる1部昇格を祝った。町野は31試合に出場し、5ゴール6アシストをマークした。

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「日本とはまた違うサッカーに対する熱量がものすごい。緊張もそれなりにありますけど、試合に出たらやっぱ最高に楽しいです」

 昨季最終節のハノーファー戦後にはドイツサッカーの熱気に興奮をしながらも、さらなる成長に向けて自身が取り組むべき課題も口にしていた。

「結果のところで満足はできない。5ゴールで止まってしまった。来年はもっと厳しいリーグになりますけど、それ以上の結果を残さないと残留もできないですし、結果にこだわりたいです」

 そして始まったドイツ1部での挑戦。ブンデスリーガ29節終了時で最下位の18位と苦戦している。チーム戦力の違いはいかんともしがたいものはある。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場クラブと比べたら、人件費は雲泥の差。チーム一丸となって必死に戦おうとも、それだけで勝ち点を取れたりはしない。

「(1部は)イメージどおりというか……苦しむのは当たり前ですし。ただ、もう少し勝ち点を取れるかなと思っていた。そこは厳しいところかなと思います」

 町野は12月のボルシアMG戦後にそう話していた。奮闘しても、身体を張っても、必死に走っても、なかなかいい形でボールにたどり着けないもどかしさ。チャンスの総数が決して多くはないチームで7点という数字は間違いなく価値のあるものだ。だがチームとして勝ち点を積み重ねられないことには、1部残留はどんどん遠ざかっていってしまう。

 そんな町野とキールが少なからずポジティブな感触を掴んだのが、28節マインツでのアウェー戦だった。マインツは成長著しい佐野海舟のほか、ドイツ代表FWヨナタン・ブルカルト、ナディム・アミリら好選手を擁し、今季のブンデスリーガで旋風を巻き起こしているクラブだ。

 そんなマインツ相手にキールは堂々たる戦いぶりで1-1の引き分けに持ち込んだ。内容的には勝ってもおかしくチームパフォーマンスだった。この試合1トップの位置で起点として何度もボールを呼び込み、仲間の攻撃を引き出していた町野は手応えを口にしていた。

「個人的にも前でけっこう起点になれたし、最後パスが出てくれば決定機というシーンも何個かあった。(僕のところで)一個ためて味方を見つけられれば、スペースは見えていたので。良かったですね」

「去年と比べたら信頼されている」確かな成長、日本代表復帰で抱いた思い

 前述のボルシアMG戦では途中出場に加え、チームとしてもあまりいいところがない試合展開だったこともあり、仲間から町野のところにボールがあまり入らない印象があった。この試合では味方がまず町野を見てボールを預け、そこから2次攻撃というイメージがチーム内で描かれているのが感じられた。

「そうですね、去年と比べたら、信頼はされている感じはします」(町野)

 マルセル・ラップ監督からは「今日に関してはマインツがマンツーマンで付いてくるんで、しっかりポストプレーで収めること。そこで起点になれたら今日みたいにチャンスになる。あとはペナルティーエリアに入っていくところですね」と話す町野の表情も明るい。

 この試合では得点はなかったが、シュートに持ち込むシーンも少なからずあった。シュートまで行けなくて点が取れないのと、チャンスには絡めているというのではまた感触も違うだろう。

「はい。久し振りにチャンスが多かったんで、決めたかったですけど。そこは自分のクオリティーを上げていかないと」

 3月に日本代表に久しぶりに選出されたことで得た刺激も大きかったことだろう。バーレーン代表戦では4分とはいえ出場を果たした。カタール・ワールドカップ(W杯)以降、なかなか呼ばれない時期が続いていただけに、その経験の1つ1つが小さくはない意味を持つ。

「そうですね、みんな上手いですし、ハードワークできますし。日本のトップレベルの中にもう一度戻るというので刺激を受けてきました。2年間選ばれずに悔しい思いをしてきたので、まずは少ない時間でしたけど試合に出れて、W杯を決める瞬間にも立ち会えた。ポジティブに捉えて、次のチャンスを掴み取れるようにしたいです」

 ブンデスリーガは残すところ5試合。キール(18位/勝ち点18)が1部自動残留の15位以上(15位ザンクトパウリ/同29)に浮上できる可能性は小さく、16位に滑り込み2部3位との入れ替え戦経由で1部残留を狙うのが現実路線。ハイデンハイム(16位/同22)、ボーフム(17位/同20)との三つ巴は最終戦までもつれることだろう。1つの得点が大きな違いを生み出す。

「みんな残留したい気持ちでやってます。毎週末に向けて、やれることはやってると思う。ただ結果がまだ出ていない。最後に残れるように、僕も力になりたいです。僕が決めるしかないので。決めたいです」

 力強さは言葉だけではない。プレッシャーもストレスもマックスに懸かってくるだけに、ピッチ上でチームを解放させるゴールを期待したい。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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