中1で身長180cm…GK不在で「僕がやることに」 強豪校オファー殺到、市船を選んだ逸材

市立船橋の辰侑樹「魅力的で将来につながる道はここだと決めました」
192センチのサイズは両手を伸ばすと一際大きく見える。市立船橋のGK辰侑樹は恵まれた体格に加え、俊敏性と反射神経を併せ持ち、名門のゴールの前に立ちはだかる。
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プレミアリーグEAST第2節の川崎フロンターレU-18戦では、テンポの良いパス回しと3人目の動きを駆使して、スピーディーかつ連動した攻撃を仕掛けてくる相手に対し、腰を落として構えを作った状態で細かいサイドステップを入れながら対応する姿が印象的だった。
サイズが大きく、足下の長いGKはどうしても細かいステップを使った左右上下の動きがぎこちなくなるが、彼は身体をコンパクトにして常にボールの動きや相手の動きを見ながら、細かくポジション修正をする。それによってシュートストップだけではなく、裏のスペースを消したりできるように対応しており、基礎技術がしっかりとしたGKのように映った。
この試合で2失点を喫し、2-2のドローに終わったが、1失点目は川崎U-18のMF藤井漣祐のシュートを味方がブラインドになりながらも反応して横っ飛びセーブ。しかし、「外に弾きたかったけど、咄嗟だったので遠くに弾けなかった」と唇を噛んだように、弾いたボールをMF新堀翔に蹴り込まれた。
2失点目はFW恩田裕太郎と完全に1対1になり、「下のコースを完全に消す判断をした」とダイビングで瞬時にコースを塞いだが、恩田が鮮やかなチョップキックで上を破られる形となった。このゴールは決めた恩田を褒めるしかない鮮やかなものだった。
さらに彼は2本の決定機を死守。1本目は左からのミドルシュートがDFに当たり、ドライブシュートのような形でゴールの枠内に襲い掛かったが、「シュートを打った瞬間に飛ばずに、コースを見極めて反応できた」としっかりと両足を地面につけた状態でディフレクションしたボールがゴールに届く瞬間にジャンプをして右手でバーの上に掻き出した。
2本目は右からのグラウンダーのクロスがブロックに入った味方に当たり、ゴール右隅に向かって勢い良く飛んできたが、これもクロス応対をしていた構えから、すぐに右足を踏み込んで左後方にバックステップをしてから横っ飛び。伸ばした左手に当てて外に弾き出した。
「サイズがデカい分、どうしてもステップが大きくなってしまって対応が遅れたりするので、細かいステップはかなり意識的に練習しています。3年になってようやくそれを実践でやれるようになってきた手応えはあります」
彼は小学校まではサイドバックをやっていたが、中学進学と共にバンディオンセ神戸FCジュニアユースに進むが、彼の年代でGKが1人もいなかった。
「当時、すでに180センチあったので、僕がやることになりました。小学校の時からGKはたまにやっていたので、『面白そうだな』と思っていたので抵抗はありませんでした」
これが大きなターニングポイントだった。バンディオンセジュニアユースは神戸市フェニックスリーグ1部に所属。トップリーグではなかったが、彼のサイズと身体能力はすでに注目を浴びる存在だった。関西GKキャンプにも選ばれたが、この時はコロナ禍で中止となった。
高校進学時には多くの強豪校から声がかかった。その中で彼は一番遠かった市立船橋を選んだ。
「インターハイと選手権に出たいと思っていましたし、プレミアリーグでプレーできるのも魅力的で将来につながる道はここだと決めました」
市船では当然のように厳しい競争が待っていた。昨年は5月のプレミアEAST第7節・柏レイソルU-18戦にスタメン出場のチャンスを得たが、0-2の敗戦。そこからは出番は訪れなかった。
だが、曽我光利GKコーチと偉大な先輩たちが惜しげもなく経験や技術を教えてくれる環境は、彼の成長を加速させた。
「GKとしての経験がまだ浅い分、物凄く新鮮でした。中学の時はシュートをひたすら止めるタイプで、前に出ないで飛んできたシュートを止めるというGKでした。でも、曽我さんから出る方法とか立体的なプレーを教えてもらいました。
キックが課題で余裕を持って蹴る時はいいのですが、足元においてすぐに蹴るということがリーチの関係もあってできなかったのですが、先輩のニコラスさんがキックの映像を撮ってくれて『こうしたほうがいい』とアドバイスをくれるので、本当に参考になりました」
彼の言う「ニコラス」とは昨年の守護神であるギマラエス・ニコラスのこと。2年時から市船のゴールを守り続け、一昨年は選手権ベスト4、昨年は日本高校選抜の守護神として活躍。今年、順天堂大学に進むと早くも関東学生リーグ2部で正GKの座を掴み取っている。
「ニコラスさんは本当に細かいところまで丁寧に教えてくれた。(セカンドGKを争っていた)原島康志郎さんもサイズが187センチと大きくて、これをどう活かすかも教えてもらえた。GKとして成長できる環境だからこそ、本当に感謝して取り組めています」
目標は日本一になること。昨年はインターハイこそ出場できたが、選手権では千葉県予選準決勝で日体大柏の前に敗れた。
「小さい頃からの夢として選手権の舞台に立ちたいと強く思っていたので、たとえ出られなくても、予選で負けた時は本当に悔しかった。特にお世話になったニコラスさんや原島さんの姿を見て余計に勝ちたかった。だからこそ、『来年は絶対にリベンジをしてやる』と強い気持ちが芽生えました。今年は絶対に勝ちます」
最大のライバルである流通経済大柏が選手権で準優勝した姿も彼の気持ちにより拍車をかけた。ライバルをなぎ倒して、恩返しをする。192センチのロマンしかない大型GKは闘志を隠すことなく燃やしている。
(FOOTBALL ZONE編集部)