大混戦のJ2…まさかの3連敗から“主役”へ 既存戦力と融合進む“チルドレン”「恩返ししたい」【コラム】

今季から鳥栖を率いる小菊昭雄氏【写真:Getty Images】
今季から鳥栖を率いる小菊昭雄氏【写真:Getty Images】

小菊昭雄監督で再スタートを切った鳥栖、開幕から苦戦も見え始めた光明

 2024年J1でまさかの最下位となり、2011年以来のJ2参戦を強いられているサガン鳥栖。昨季までセレッソ大阪で27年間指揮官やコーチ、スカウトを歴任した小菊昭雄監督が就任し、第9節終了時点で4勝1分4敗の勝ち点13で8位につけている。

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 とはいえ、ここまでの道のりは決して順調とは言えなかった。開幕直後はベガルタ仙台、ジュビロ磐田、FC今治に3連敗。同じく降格組のコンサドーレ札幌とともにJ3降格圏に沈み、先行きに暗雲が立ち込めたのだ。
 
 さらに4試合目のいわきFC戦もドロー。この時点では小菊監督を懐疑的に見る声も高まったが、続くRB大宮アルディージャ戦を1-0で勝ち切ったことで希望が見えてきた。そこからは白星先行となり、4月突入後は藤枝MYFCとV・ファーレン長崎に連勝している。
 
 とりわけ、直近13日の長崎戦は敵地・ピーススタジアムに1万9000人超が集結する大一番だった。隣県ライバルとのダービーで2ゴールをマークしたのが、今季ここまで無得点だったFW山田寛人。山田とともに前線でトライアングルを形成する西川潤も「これは超大事な試合だった。すごく嬉しかったですね」と満面の笑みを浮かべていたが、小菊監督もC大阪時代の教え子たちがイキイキと躍動感あるパフォーマンスを見せたことを心から嬉しく感じたはずだ。

 実際、今季の鳥栖を見てみると、“小菊チルドレン”が要所に並んでいる。2018年にU-18からトップ昇格した山田、2020年に桐光学園高校からC大阪入りした西川は象徴的な存在だが、2017年にU-18からトップに上がって松本山雅FCや愛媛FCなどで実績を積み上げたDF森下怜哉、2021年夏~22年夏、そして23年夏~同年末までC大阪に在籍した左ウイングバック(WB)の新井晴樹、23~24年にC大阪の一員だったGKヤン・ハンビン、今年3月にレンタル加入した松本凪生と各ポジションに息のかかった人材が陣取っている。高橋大輔コーチも含めると、かなりの勢力になるのは間違いない。

 長崎戦に目を向けると、山田が3-4-2-1の1トップに入り、西川が右シャドウで先発。新井が左WBで攻守にて存在感を発揮し、山田の先制点につながる見事なボール奪取を見せた。森下も3バックにセンターで確実に守備陣を統率。後半途中からピッチに立った松本も西矢健人とボランチコンビを組み、ギリギリの状況下で逃げ切りに貢献している。試合に出なかったのはヤン・ハンビンくらいで、チルドレンが今の鳥栖の主軸を担っている。それは指揮官が新天地で新たなチーム作りを進めていくうえで、大きなアドバンテージになっているに違いない。
 
「僕はセレッソの時も一緒にやってるし、小菊さんはすごく熱い人間で自分たちのモチベーションを高めてくれるし、選手1人1人の顔色とか全部見てる。自分がプロキャリアをスタートしてから小菊さんは長い時間、自分に携わってくれているので、ここで1つ恩返ししてJ1に上がりたい。同じ気持ちの選手も多いと思います」と、新井も前向きにコメントしていた。

降格の悔しさを知る選手たちと新戦力が徐々に融合「ようやくスタートライン」

 2022年4月の川崎フロンターレ戦以来の1試合2ゴールをマークした山田も「小菊さんには本当にお世話になっていますし、自分に期待してくれているのもよく分かっている。『何点以上取ってくれ』とか『J2で得点王になってくれ』というのは鳥栖に来た時からずっと言われるし、セレッソの時も言われていました。だからこそ、(2点を取ってチームを勝たせた)今日は特別な日になったのかなと思います」と1トップ起用に踏み切ってくれた指揮官への感謝の言葉を口にした。

 小菊監督の誠実な人柄をチルドレンたちはしっかりと理解したうえで、自身に課せられたタスクを確実に遂行しようとしている。その真摯な姿勢は他のプレーヤーにも好影響をもたらしているはずだ。

 長崎戦の後半などは、相手がマテウス・ジェズスやファンマ・デルガドらを前線にズラリと並べて次々とクロスを蹴り込んできたが、耐え忍んで無失点でフィニッシュできたのも、彼らの高度な意思統一と結束力の表れだと言っていい。
 
 そういった一体感は2024年の鳥栖に欠けていた部分。昨年8月に川井健太監督から木谷公亮監督(現・コーチ)に指揮官が交代した頃は明らかに選手たちが迷いながらプレーしていた。ベテランの清武弘嗣(現・大分トリニータ)が必死に若い選手たちを同じ方向に歩ませようと声をかけていたが、彼自身も怪我がちでピッチに立てないことも多く、最終的には降格という厳しい現実に直面した。その悔しさを知る西矢や日野翔太、ヴィキンタス・スリヴカらが小菊監督やチルドレンら新加入選手と上手く融合した結果、今はいい循環が生まれつつあるようだ。

「ただ、我々は3連敗からスタートしたチーム。選手たちにも伝えましたが、ようやくスタートラインに立てただけ。次のレノファ山口戦に向けて、ここからしっかりと準備していかないといけない」と小菊監督は改めて気を引き締めていた。

 確かに今季のJ2は大混戦。ここまで9戦を8勝1敗で戦っている首位・ジェフユナイテッド千葉は勝ち点24で頭一つ抜けているが、2位・大宮(勝ち点19)から8位・鳥栖(同13)までの勝ち点差は6。ここから連勝できれば、短期間でのJ1自動昇格圏(2位以内)浮上も夢ではない。本当の戦いはこれからなのだ。

鳥栖の複数得点者は山田1人のみ…上昇気流に乗る鍵は?

 鳥栖としては、総失点10という数字を減らし、強固な守備を形成しつつ、総得点8という攻撃陣のテコ入れを図っていかなければいけない。複数得点勝利は直近の長崎戦がシーズン初で、チームの複数得点者も山田1人。物足りなさが残ると言うしかない。

 他チームを見渡すと、得点ランキングトップの小松蓮(ブラウブリッツ秋田)とマルクス・ヴィニシウス(今治)の7点を筆頭に1人で複数のゴールを奪っているアタッカーが何人もいる。山田がその領域に上り詰め、さらに西川やスリヴカも決定力を高めていけば、鳥栖は上昇気流に乗れる。今後、怪我から復帰するであろう酒井宣福や西澤健太らタレントもいるが、やはり山田と西川、新井は小菊監督への恩返しを果たさなければならない。貪欲に泥臭くゴールを狙い続け、結果を残していくべきだ。

“小菊チルドレン”たちが鳥栖という新たな環境でどのような変貌を遂げていくのか。そして指揮官自身もどんなマネジメントを見せるのか。そこに注目しつつ、今後の彼らの動向を注視していきたいものである。

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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