18歳逸材が台頭…「クールな落ち着いた子」 チームを立て直した三銃士、豪指揮官が持つ“審美眼”【コラム】

ハッチンソン監督はトップ昇格1年目の18歳MF川合徳猛を抜擢
ジュビロ磐田はJ2リーグ9試合を終えて、5勝2分2敗で勝ち点17で、現在3位に付けている。一方、ルヴァン杯ではアウェーでJ3首位のFC大阪、ホームでJ1の清水エスパルスを破り、3回戦に勝ち進んだ。”アタッキングフットボール”を掲げるジョン・ハッチンソン監督の就任1年目としては悪くない出だしだが、ここから躍進していくには新たなエネルギーが必要だろう。
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ハッチンソン監督は日々のトレーニングからハイレベルな競争を求める中で、開幕時から徐々にではあるが、スタメンの入れ替えや途中で投入する選手も変化させてきている。象徴的だったのがアウェーで2連敗した直後の第5節、ヴァンフォーレ甲府戦でGK阿部航斗、DF上夷克典、MF角昂志郎の3人をスタメンに抜擢したことだ。そこからルヴァン杯も含めて7試合無敗で来ており、ハイラインの守備とカバーリング、ビルドアップの安定化に大きな効果を発揮したことを示している。
ただ、その甲府戦からスタメンを外れた左センターバックのリカルド・グラッサも、第9節のロアッソ熊本戦で、1点のビハインドから後半途中に投入されて、同点ゴールの起点になる大仕事をやってのけるなど、スタメン最奪取に向けて良いアピールをしている。また新加入ながら4-2-1-3のトップ下という新たなポジションにトライし、開幕戦から4試合スタメンだったFW佐藤凌我も”ゲームチェンジャー”としての役割にやりがいを見い出しており、実際に甲府戦から全ての試合に途中投入されて、ベガルタ仙台戦の決勝点など、チームの勝ち点獲得に大きく貢献している。もちろん佐藤も「またスターティングイレブンに戻れるように頑張りたい」と主張しており、トップ下は磐田のホットゾーンと言える。
そのトップ下を含む2列目で、新たに台頭してきたのがトップ昇格1年目のMF川合徳孟だ。18歳の川合に関してハッチンソン監督は「クールな落ち着いた子」という印象を持っているが、戦術的な吸収力が高く、指揮官が求めるハードワークにも貪欲だ。しかも、局面では高い技術と発想力を発揮できる。FC大阪戦では慣れない右ウイングで奮闘し、決勝点となるプロ初ゴールを決めた。
その試合でのパフォーマンスを高く評価したハッチンソン監督は川合をアウェー山形戦の終盤にリーグ戦デビューさせると、続くルヴァン杯2回戦の”静岡ダービー”ではトップ下で起用された。佐藤と縦関係となり、幅広く躍動した川合は直接のゴールやアシストこそ無かったが、再三の危険なスルーパスでチャンスを演出した。後半39分までプレーしており、指揮官もさらに評価と信頼を高めたようだ。
熊本戦は欠場したが、ここからリーグ戦の競争に絡んでくることは間違いない。トップ下は上記の通り、佐藤と角がハイレベルな競争を繰り広げているが、川合はドリブラーの角やスペースランを得意とする佐藤とも違う特長とリズムを持っている。川合も攻撃的なポジションをどこでもこなせるが、佐藤はセンターフォワード、角は左右ウイングでプレーすることができるため、色々な組み合わせが考えられる。そこは良い意味で指揮官を悩ませそうだ。
熾烈なポジション争い
もう一人、ルヴァン杯で大きく評価を高めてきたのが加入2年目の川﨑一輝だ。J3のカマタマーレ讃岐から来た川﨑は横内昭展前監督のもとで、右サイドバックの候補として期待されながら、なかなか出番を得られずに、J2に降格したチームの力になれず、悔しい経験をした。ハッチンソン監督は鹿児島キャンプからウイングとしての適正に注目し、主に右ウイングでテストしてきた。しかし、ここまでジョルディ・クルークスが同ポジションで4アシストを記録するなど、磐田にとって最大の武器になっており、89分に退いた開幕戦をのぞき、フル出場を続けている。
そうした状況にあって、ハッチンソン監督は左ウイングのジョーカーとして投入するようになると、アウェーのカターレ富山戦では失点に絡む致命的なミスを喫してしまったものの、その後リバウンドメンタリティを発揮して、アウェー仙台戦の決勝アシストに続き、スタメン起用されたFC大阪戦でもアシストを記録。右ウイングを担った静岡ダービーのゴール、そして熊本戦の同点アシストと奮起している。
ここ数試合では磐田でもっとゴールに絡んでいる選手であり、右のクルークス、左の倍井謙という主翼がいる中でも、さらに出場時間が増えていく可能性がある。スピードに乗った仕掛けからのクロスやミドルシュートだけでなく、セットプレーのキッカーとしても得点を狙えるタレントで、ロングボールの空中戦というプラスアルファの武器もある。ここから磐田が躍進するためのキーマンの一人であることは間違いない。
ボランチの金子大毅もここに来て大きく評価を高めている1人だ。ここまでリーグ戦は中村駿と上原力也というファーストセットが君臨しており、金子は主に終盤のクローザー的な役回りで出番を得ている。しかし、ルヴァン杯のFC大阪戦では見事な攻め上がりから川合の決勝ゴールの起点となり、ついにリーグ戦のスタメンで起用された熊本戦では川﨑からのクロスにダイビングヘッドで合わせる同点ゴールで、チームをホームでの敗戦危機から救った。
熊本戦後の記者会見で、上原の体調不良があったことをハッチンソン監督が明かしており、まだボランチのポジションを確保したとは言い難い。しかし、戦術リーダー的な存在である中村に上原、金子、そして攻守の機動力に優れるレオ・ゴメスという4人が、誰が出ても高いベースで”アタッキングフットボール”を実現できる競争状態を築いていければ、ここからの戦いにとっても心強いだろう。
川合、川﨑、金子といった選手たちの台頭はポジティブだが、ハッチンソン監督が「スーパーアグレッシブ」と表現するアタッキングフットボールを貫いて、J2優勝、J1昇格という目標を果たすには、まだまだ選手層のアップが欠かせない。そのためにも、さらなる競争の活性化が求められる。

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。