雪国クラブの苦悩…スケート場で練習 66歳名将が直面、獲得→即引き抜き「そんなのばっかだよ」【インタビュー】

指導者キャリア31年目、石﨑信弘監督がJ3八戸を率いる“現在”
日本サッカー界では数々の名将が生まれてきた。66歳の石﨑信弘監督はその1人に数えられる。昨年、Jリーグ史上初通算800試合指揮の金字塔を打ち立てた石﨑氏の監督キャリア年数は30年以上。1995年にNEC山形(現モンテディオ山形)で指導者として歩み始め、現在はJ3ヴァンラーレ八戸を指揮する。雪国ならではの過酷な環境、そして、限られた予算での戦いを余儀なくされながら、監督人生を謳歌している。(取材・文=江藤高志/全3回の3回目)
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石﨑信弘監督を招聘し、2年目のシーズンを戦った昨季の八戸は、J3全20チーム中11位の成績でフィニッシュした。
リーグ下位の強化費しかない八戸のチーム編成は簡単ではない。基本的にJ3リーグ内で選手を獲得し、そこにレンタル(期限付き)移籍の選手を加えてチームを作ってきた。レンタルの選手の場合、移籍元のクラブとの協議で年俸の負担割合が決まるため、能力が高い場合が多く、試合に関わる機会も増える。その結果、他クラブの補強リストに名前を連ねることも少なくない。昨季の八戸では徳島ヴォルティスからレンタルで加入し、出場停止を除く全試合で先発出場していたオリオラ・サンデーが、シーズン中の7月に大宮アルディージャ(現RB大宮アルディージャ)へと移籍している。
「そんなのばっかだよ」とぼやく石﨑監督だが「まあでも、やっぱりレンタルで来ているのは上のカテゴリーの子で、才能があってなかなかそこで出れてない子も多いからね。だからレンタル先で活躍して違うチーム行くというのはそれはそれでいいことだと思うよ」と、選手を思いやる一面も覗かせた。
参考までに、Jリーグが開示した2023年度のデータでは八戸の強化費は1億2600万円で、J3では19位の数字だった。最下位はY.S.C.C.横浜で1億1300万円。23年の成績は八戸が勝ち点56で7位。勝ち点1を得るのに費やした強化費は225万円となる。これは勝ち点52を獲得して12位につけたYS横浜の217万円に次いでリーグ2番目に低い数字だ。基本的に選手年俸と選手の能力は比例するが、育成能力のある監督がチームを率いる場合、選手の能力を引き上げて年俸以上の活躍を見せることがあるということだろう。

鍛えて伸ばせる監督は重宝がられる存在に
八戸での指導は3シーズン目。青森の地には慣れた一方、雪国ならではの練習環境に百戦錬磨の名将もさすがに辛さを訴える。
「どうしても雪国だから(2月は)アウェーが続いていくんじゃけど、お金がないから帰ってこなきゃいけない。札幌なんかだと熊本で合宿を続けられる。もちろん、合宿地から試合に行くのも大変だけど、八戸は地元に戻らなきゃいけない。戻っても雪があるんじゃけどな」
大雪に降られるとサッカー場は使えず、スケートリンクの中央部分にある人工芝のエリアで練習することもあるという。
「スケートリンクの中の人工芝だから、そこまで全然大きくないんだよね。やっぱりフットサルコートが2面か1面か。そこで練習しなきゃいけない。開幕前にもしかしたら雪が降ったらずっと人工芝で練習しなきゃいけなくなってくる。若い子でも怪我持ってる子もいるしね」
だから秋春制については練習環境の確保で難しさが出ることは覚悟していた。ちなみに移動はどこに行くにも遠くなるため、飛行機が多いとのこと。
「飛行場がすぐそばにあるからね、三沢空港が。だから飛行機の移動が多いのかな。バスで行けるほど近いところは、岩手がなくなっちゃったからね」
バスで移動できるチームと比べると必要経費は多くなってしまう。その分、強化費は少なくならざるを得ないのかもしれない。だからこそ、鍛えて伸ばせる石﨑監督は重宝がられることになる。
オファーが来る限り監督を続けたいと話す名将は、八戸のJ2昇格を目指し2025年のシーズンを戦っている。
(江藤高志 / Takashi Eto)

江藤高志
えとう・たかし/大分県出身。サッカーライター特異地の中津市に生まれ育つ。1999年のコパ・アメリカ、パラグアイ大会観戦を機にサッカーライターに転身。当時、大分トリニータを率いていた石崎信弘氏の新天地である川崎フロンターレの取材を2001年のシーズン途中から開始した。その後、04年にJ’s GOALの川崎担当記者に就任。15年からはフロンターレ専門Webマガジンの『川崎フットボールアディクト』を開設し、編集長として運営を続けている。