すべての移籍は「日本代表に選ばれるため」 24歳日本人、欧州“最高の舞台”で成長実感「レベルが違う」【インタビュー】

ドイツ2部カイザースラウテルン所属の横田大祐、日本代表戦は「覚えてます」
ドイツ2部カイザースラウテルンで活躍しているMF横田大祐。かつて日本代表の希望が打ち砕かれた因縁の地で飛躍を遂げる24歳は本拠地フリッツ・ヴァルター・スタジアムでインタビューに応じ、タフなリーグで戦い続けるなか「ここでできたら、また成長できている自分が来年には見られると思う」と語り、日本代表入りを目指して活躍を誓う。(取材・文=中野吉之伴/全4回の4回目)
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カイザースラウテルンと聞くと、日本のサッカーファンの中には2006年ドイツ・ワールドカップ(W杯)を思い出す人も少なくないかもしれない。ジーコジャパンが大きな希望と期待とともに迎えたドイツW杯初戦の会場がここだった。オーストラリア代表を相手に終盤失点を重ねていく日本代表を呆然と眺めるしかなかったあの日。思い出すだけで心の痛みを感じる人もまだいるかもしれない。
今、ブンデスリーガ2部のカイザースラウテルンでプレーする横田大祐も当時のことを記憶している。
「覚えてます、覚えてます。スタジアムに対しての記憶はないんですけど、その試合はもちろん記憶あります」
そんな思い出があるスタジアムで今、自分がプレーしている。横田は不思議そうに、感慨深そうに振り返っていた。
「本当、何があるか分かんないですよ。仕事がなかったんですから、4年前は」
2020年コロナ禍で日本へ一時帰国していた頃のことだ。日本ではJリーグへ行けず、一念発起して渡ったドイツでもすぐに芽は出ず。さらにはコロナ禍の影響で活動そのものがストップ。それでも横田は止まらなかった。ラトビアから訪れたオファーをモノにし、ルーカス・ポドルスキからの直電でポーランドへ渡り、ベルギーの名門KAAヘントが200万ユーロ(約3億2000万円)で獲得に乗り出すほどの選手にまで成長。さらなる可能性を求めて移籍したカイザースラウテルンですぐにレギュラーポジションを確保すると、切れ味鋭いドリブルとクレバーなパスでファンから大きな拍手を送られている。
異色プレーで存在感「それが良い面ではアクセントになるし、悪い面では…」
ドイツサッカーではDFや中盤の選手がボールを持った時、すぐ近くに寄ってくる選手にパスを預けることを優先するケースは少ない。まず視線は前線の選手の動きを捉えている。相手を背負いながらパスを受ける準備をした選手にボールを当て、そこからスペースに落として攻撃のペースを上げるのがスタンダードな形だ。2部、3部になるとその傾向はさらに強くなる。そんななか、狭いスペースでも一瞬の動き出しでボールを受ける状況を作り、相手のチェックも素早い動作とターンで外していく横田のプレーは異色なものとも言える。
「そうですね。それが良い面ではアクセントになることがあるし、悪い面では試合の流れから消える場面が多くなることもある。そこをチームに合わせるのがちょっと難しかったです。最近は自分がどういうプレーヤーか100%分かってもらっていると思います」
試合取材で訪れたのは2024年12月に行われた昇格を争うケルンとの一戦。1部経験者も多いチーム相手にホームで悪くない試合運びをしながら、カイザースラウテルンは結局1失点に泣いた。横田は相手を置き去りにするプレーや味方に鋭いパスを通してシュートシーンを演出するなどスタジアムを度々沸かせたが、勝ち点には結び付かなかった。チャンスメイクに多大な貢献をしている一方、自身でシュートまで持ち込むシーンが多くなかったのは気になるところ。試合後、その点について尋ねてみた。
「シュートに関しては正直、もっと打ちたいです。自分経由でチャンスができているという自負はある。ただ自分が起点で攻撃していると、どうしてもボックス内に間に合わないことがある。遠くからもシュートを打っていきたいですが、マークも厳しい。そこをできるように練習していくだけですね」
スタジアムで取材をしていると横田が味方の動きに合わせるだけではなく、味方が横田に合わせようとする動きがよく見られる。それが上手くいくとチームにとって有利な展開になることが多いからだ。当然、相手も研究し、横田を試合の流れから消そうとする対策を考えて試合に臨む。
「たまにマンマークで付かれているなっていう感覚が試合中にありました。そうなってくるとボールを受けられる回数も減ってくる。だから最近は、ボール持ってないところでの動きでも、もっと怖い存在になりたいなって思っています」
日本代表DF板倉滉も指摘する「難しいリーグ」 日本代表入りへ「いい舞台」
丁寧に答えてくれる横田とケルン戦後のミックスゾーンで話をしているなかで、気になることがあった。ずっと隣に立って「うん、うん」と頷きながら相づちを打つ人物がいる。26歳のFWラフナール・アヘだ。
元U-21ドイツ代表で、東京五輪メンバーでもあったアヘ。横田が「彼は今、日本語の勉強中なんで」と話を振ると、「フランクフルト時代に長谷部誠や鎌田大地から日本語を教わったんだ」と笑顔で話してくれた。負傷欠場していたアヘを見ながら、「彼が戻ってきたらまた勝ち始めますよ」と横田が言うと、アヘは「君がアシストして、僕がゴールを決める」と口にしてガッツポーズ。仲の良さを感じずにはいられない。
移籍を繰り返している経験からだろうか。横田はチームに難なく溶け込んでいる。英語でのコミュニケーションは全く問題ないし、インタビューをさせてもらった時も広報とスムーズなやり取りをしていた。自分で道を切り開いてきた自己解決力と言えばいいだろうか。それがあるから成長に結び付けることができるのだろう。
2部リーグは一般的に思われるほど簡単ではない。これは2部経験者がみんな口を揃えて言う言葉だ。今、ドイツ1部ボルシアMGで主軸として活躍する日本代表DF板倉滉もシャルケ時代にこんなふうに話していた。
「僕が感じたのはサッカーの根本的なところ、球際とかフィジカルとか、そういうところが詰まったリーグかなって。難しいリーグだと思った。シャルケに移籍して、僕にとってめちゃくちゃいい経験になった。プラスでしかないと思っています」
横田も似たような感覚を口にしている。
「(これまでプレーして)いろいろなところがタフでしたけど、タフさで言ったら結構レベルが違うという感覚があります。ここでできたら、また成長できている自分が来年には見られると思う。いい舞台かなって思っています」
タフな試合で、勝敗を決定づける好プレーを出せるようになったら間違いなく次の扉は開かれる。ベルギー1部ヘントへ移籍をした理由の1つに、「ここで活躍すれば日本代表に」というのを明かしていたのを思い出す。代表に対する思い。その言葉にはより一層力が込められていた。
「ずっと、今までの移籍とかも、全部はもう日本代表に選ばれるために、日本代表で活躍したいっていう思いが一番上にあって、そこから考えていろいろやってきました。そこに対する思いは一番強いかなと思います」
躍動感あふれるプレーでファンを沸かせ、伝統的なクラブを1部へ導く活躍を見せてほしい。横田のさらなる飛躍に期待が集まる。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。