“ガス欠”の英名門…日本人欠場に「またか」 出場機会は限定も浮き彫りになる貴重性【現地発コラム】

フルハム戦で出番なしに終った遠藤航【写真:Getty Images】
フルハム戦で出番なしに終った遠藤航【写真:Getty Images】

14分間の3失点に泣き、黒星を喫したフルハム戦

「Amazing! Amazing!!(まさか! 信じられない!!)」と、近くの席でフルハムのサポーターが声を上げた。4月6日のプレミアリーグ第31節、クレイブン・コテージにリバプールを迎えたホームゲームで、リーグ首位からの勝利(3-2)を意味する試合終了の笛が鳴る寸前のことだった。

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 それに先立つ96分間、その男性ファンの数列前に位置する記者席で、古風な木製のシートに座っていた筆者も、信じられない思いで試合を眺めていた。

 フルハムの勝利という結果は、「まさか」とまではいかなかった。マルコ・シウバ体制4年目のリーグ中位は、降格回避ではなく、トップ10入りを目標とできるチームに進化している。上位戦では、ガードを固めながら効果的にパンチも繰り出し、結果を残す力を持つ。ホームでは、同節を終えて2位のアーセナル、予想外の3位躍進を演じているノッティンガム・フォレスト、勝ち点数では4位チェルシーと並ぶ5位ニューカッスルからも、合わせて7ポイントを奪っていた。

 しかし、リバプールの遠藤航に出番が訪れないままだった内容に関しては、「またか」と信じ難い心境だった。前半から追う展開では、クローザー不要でも仕方なしとの見方はある。だが、同23分からの14分間に3失点で逆転を許した原因は、不安定極まりなかった守備。いずれも、DF陣のミス絡みだ。開始早々の5分、CBのイブラヒマ・コナテが自軍ボックス内でコントロールを誤った時点で、1失点目を記録していても不思議ではなかった。

 揃って及第点以下の出来だった4バックの手前に、頼りになる本職のボランチがいれば? ピッチに立った途端、精力的かつ頭脳的な守りで、チームの後方に安定感をもたらせる遠藤がいたとしたら? この日のリバプールMF陣では唯一、評価に値するパフォーマンスを示し、鮮やかなミドルで先制ゴールを決めてもいたアレクシス・マック・アリスターに、持ち前の攻撃センスを最大限に発揮させることができていたら?

 だが実際には、アルネ・スロット新体制下で6番役を務めるライアン・フラーフェンベルフが、後半22分の選手交代に伴いCBに回るまで、マック・アリスターと2ボランチを組んでいた。以降は、攻撃的MFだが右SBとして起用されていた、カーティス・ジョーンズが中盤中央で相棒となった。

薄れてきたフラーフェンベルフの効き目

 フラーフェンベルフのボランチ起用自体を否定するつもりはない。オランダ代表MFは、この日の3失点に絡んでいたわけでもなかった。リバプールは、ジョーンズのクリアミスと言うよりは、クロスを予期していなかった急造SBの膝に当たったリバウンドから同点ゴールを決められた。相手の勝ち越し点は、左SBアンディ・ロバートソンが横パスをインターセプトされた、後方ビルドアップ失敗に端を発している。3失点目は、最終ラインの要であるはずのフィルジル・ファン・ダイクが、いとも簡単に競り負けてしまった。

 ただし、彼らを保護する強固な盾が中盤の底に存在していたわけでもなかった。この日のフラーフェンベルフは、力負けや判断ミスが目についた。

 後半戦に入ってから度々指摘されてきたが、心身両面での疲労蓄積が隠せない状態にあるようだ。フルハムとの第31節は、今季31試合目のリーグ戦先発。国内外で計43試合を数えている常時出場は、移籍2年目の22歳にとって、アヤックス時代の2021-22シーズン以来となる。加えて、プレミアの強豪では、祖国での古巣時代とプレッシャーの大きさも桁違いとなれば、シーズンを通して高いパフォーマンスレベルを維持できなくても無理はない。

 4日前の前節エバートン戦(1-0)は、怪我で3月後半の代表活動を辞退した直後だった。一部の国内メディアでは、「休養の成果」と「決勝点につながるパス」で、10点満点中8点の高評価を得てもいた。だが個人的には、そこまでの出来とは思えず。逆に前半の影響力不足が気になった。

 フラーフェンベルフの効き目が薄れてきたピッチ上に、遠藤がいれば。そう感じられた試合は、フルハム戦が過去4試合で3度目だ。その中で1試合だけ勝利を奪ったエバートン戦にしても、後半アディショナルタイム3分という投入は、タイミングが遅すぎると思われた。

 決して、日本人としての感覚が言わせるものではない。地元サポーターの間でも、出番が少なすぎる選手として、攻撃的MFハーヴェイ・エリオットとともに、守備的な遠藤の名前が挙がる。アンフィールドのシーズンチケットを持つ筆者の友人は、「今夏に移籍先が見つかることを願うよ」と言うようになった。リバプールに不要な存在だからではなく、より多くの試合で必要とされて然るべき存在だからという理由だ。

 さすがに、フラーフェンベルフに代わって先発すべきだとまで言う者は少ないかもしれない。新監督は、奪い返したり、後ろから受けたりしたボールを、攻撃的に活用できる能力を中盤の底の担い手に求める。この必要条件を、遠藤以上に満たしていることは間違いない。

勝利のためにハードワークが必要なら…

 指揮官にすれば、同じオランダ人でもあるフラーフェンベルフの6番役抜擢は、ユルゲン・クロップ前体制時代とは一味違う、「スロットのリバプール」を象徴する選手起用とも理解できる。フラーフェンベルフ自身も、序盤戦から上々のパフォーマンスで期待に応えてきた。

 しかし、その新6番がガス欠状態でシーズン大詰めを迎えている。となれば、プレミアでも折り紙付きの「本職」という代替手段を、有効活用しない手はないのではないか? 遠藤が持つ異なる特性は、フラーフェンベルフ自身も認めるところだ。

 前半戦での第7節クリスタル・パレス戦(1-0)、後半44分になってベンチを出た遠藤が、いきなり的確にして強烈なスライディングタックルで敵のカウンターを阻止した瞬間、ピッチ上の数メートル離れた位置から、思わず賞賛の拍手を送ったフラーフェンベルフの姿が印象に残っている。スタンドの「12人目」からも、「絶対に期待を裏切らない」と評される守備能力とプロ意識の高さを持つ日本代表MFは、周囲の味方が攻撃的な能力を発揮しやすい環境を作り出すことにより、チームを相手ゴールへと向かわせることができる。

 英語圏には、「壊れていないのなら、直す必要はない」という意味のことわざがある。しかし、フラーフェンベルフが出ずっぱりの今季リバプールは、PK戦(1-4)の末にCL16強敗退が決まった、3月11日のパリ・サンジェルマン戦第2レグ(0-1/計1-1)で壊れている様子も見受けられた。

 遠藤がピッチに入ったのは、延長後半6分。精彩を欠いていたフラーフェンベルフを120分間使い続けるのではなく、延長戦を前にベンチに下がったマック・アリスターや、延長戦前半の交代時に不満を隠せなかったドミニク・ソボスライに、より攻撃を意識させ得る早めの遠藤投入というベンチワークで、得点を狙う手もあるかと思われた。

 続いて、連覇を逃した3月16日のリーグカップ決勝(1-2)では、空陸とも、五分五分の競り合いでニューカッスルに軍配が上がり続けた。支配できなかった中盤に、デュエルを得意とし、見た目の高さ以上にヘディングにも強い遠藤がいれば、リバプールは形勢を変える糸口を掴むことができたのではないか。

 スロットはというと、2点ビハインドからのカムバックへと、攻撃陣をベンチから送り出し続けた。最後は、事実上の4トップ。だが、終了間際に1点を返すに留まり、遠藤は敵に思いどおりの戦い方をされた敗戦をベンチから眺めるだけに終わった。

 そして、今季プレミアでの連続無敗に26試合で終止符が打たれたフルハム戦。残り7試合で、2位との間には勝ち点11ポイント差をつけてはいるものの、ふらふらの状態ではなく、威風堂々と、5年ぶり通算20回目のリーグ優勝を成し遂げるためには、遠藤という貴重な中盤の守備力を、より本格的に活用すべきだ。

 いみじくも、就任1年目のプレミア初優勝を狙うスロット自身が、フルハムに敗れたあとに言っていた。

「試合に勝つためには、ハードワークあるのみ。90分間、ひたすら努力を続けるしかない」

 必要とされれば、確実に任務遂行で応えてみせるハードワークとチームワークの体現者。それが、遠藤なのだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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