日本代表のW杯敗退「今さら言い訳できないのだが…」 イタリア人の悔恨「それが唯一、残念だった」【インタビュー】

ザックジャパンの元コーチが当時の日本代表を回顧【写真:産経新聞社】
ザックジャパンの元コーチが当時の日本代表を回顧【写真:産経新聞社】

日本代表を支えたジャンパオロ・コラウッティ氏「日本に可能性を感じていた」

 アルベルト・ザッケローニ氏が率いた日本代表チーム(2010年~14年)でテクニカルアシスタントコーチを務めたイタリア人のジャンパオロ・コラウッティ氏。「まるで家族のようだった」と当時の代表チームを評しつつ、日本サッカーの印象やザッケローニ氏との仕事、グループリーグ敗退に終わったブラジル・ワールドカップ(W杯)について振り返った。(取材・文=倉石千種)

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――ザッケローニ氏が日本代表監督をしていた時、テクニカルアシスタントコーチとして日本サッカーに貢献されましたね。

「日本代表チームを率いたアルベルト(・ザッケローニ)とは、2010年から2014年のブラジル・ワールドカップまで一緒に仕事をした。実は日本サッカーについて、日本代表が初めてW杯に出場した1998年フランス大会の前から、いろいろ知っていたんだ。イタリアサッカー連盟と仕事をして、日本にも行っていた。その頃から日本が大好きになり、日本に大きな可能性を感じていたよ」

――改めて日本サッカーに対する印象を教えてください。

「当時から日本はアジアにおいて技術的に優れていたが、そこからさらにレベルが向上し、今も着実に成長を続けている。育成やJリーグなどのレベルが全体的に底上げされ、海外移籍する選手も増えている。とりわけヨーロッパでプレーしている選手たちの活躍が目覚ましいが、それは日本サッカーの成長にも欠かせない要素の1つだ。ただ、まだ課題や不足しているものも多い。例えばJリーグにおける選手の平均的な技術水準は高い一方、闘争心や競争力、戦術面などは改善の余地がある。それは欧州トップリーグに行けば、選手自身が強く実感するに違いない。それでも短所とされたフィジカル面で言えば日本は着実に強くなっているし、欧州トップリーグとの差は以前よりも縮まっているように思う」

――日本代表で指揮を執ったザッケローニ氏との仕事はどうでしたか?

「アルベルト(・ザッケローニ)とは、仕事がとてもやりやすかった。彼のメンタリティーは日本的で、非常に礼儀正しく、選手や誰に対しても敬意を持って接するし、人間的に素晴らしい人格だった。彼は常に自然体で仕事をして、すべてが自然に溶け込んで上手くいっていたと思う」

日本代表時代を振り返ったジャンパオロ・コラウッティ氏【写真:倉石千種】
日本代表時代を振り返ったジャンパオロ・コラウッティ氏【写真:倉石千種】

ブラジルW杯での心残り「仮に主力組のコンディションが良好だったら…」

――ザッケローニ監督が率いた日本代表は2014年ブラジルW杯で躍進を期待されましたが、初戦のコートジボワール代表戦で1-2の逆転負け。第2戦はギリシャ代表と0-0ドロー、第3戦のコロンビア代表戦で1-4と敗れ、1分2敗でグループリーグ敗退と悔しい結果に終わりました。

「初戦のコートジボワール戦は途中から難しい展開となり、試合中に上手く切り替えることができなかった。選手やチーム全体の経験値が足りなかったとも言える。本番特有のプレッシャーをコントロールし切れなかった。それまでの親善試合ではフランス代表(2012年10月12日/1-0)やベルギー代表(2013年11月19日/3-2)に勝利し、オランダ代表(2013年11月16日/2-2)に引き分けた。チャレンジャーの立場で臨み、伸び伸びプレーできていた。しかし真剣勝負のW杯では大きなプレッシャーがのしかかり、それまでのようにプレーできなかった。今さら言い訳はできないのだが……」

――現地ブラジルでの調整に何か問題があった?

「調整自体に大きな問題はなかった。とはいえ、選手たちの状態が100%でなかったのも事実だ。長谷部(誠)は膝を手術していたし、内田(篤人)も膝に痛みを抱えていた。香川(真司)も怪我を抱え、遠藤(保仁)も万全とは言い難い状態だった。主力の多くが100%のコンディションではなかった。仮に主力組のコンディションが良好だったら、ブラジルW杯は全く違うストーリーになっていたと思う。それが唯一、残念だった」

――2014年当時に比べて、現在の日本代表チームは大部分が海外組で構成されています。ビッグクラブでプレーしたり、海外で長年活躍している選手も多く、個人やチームの経験値という意味では着実に底上げされている印象を受けます。

「当時の日本代表メンバーには国際経験の豊富な選手もいたが、現在の日本代表に比べれば、その人数と割合は少なかった(2014年ブラジルW杯の日本代表メンバー23人中、海外組12人、国内組11人)。だが、今の日本代表はほぼ海外組で構成されており、選手のクオリティーも経験値も極めて高い。海外で大舞台を経験してプレッシャーに対する耐性を持つ選手も増えているだけに、W杯で大きな成功を収める土台はすでにできているように見える」

日本代表に欠かせない1人「彼の凄さは知っているし、大きな価値を加える存在」

――2014年W杯の日本代表メンバーで言えば、長友佑都選手は今も日本代表としてプレーをしています。

「フィジカル面で問題なければ、彼は日本代表に必要な存在だろう。日本代表や海外クラブでの経験値は豊富だし、イタリアのビッグクラブ・インテルでも主力としてプレーしていた。ゲームキャプテンを務めていたことだってある。チームを支えるため、ピッチ内外、ベンチやロッカールームでどう振る舞うべきかを彼は熟知している。アルベルト(・ザッケローニ)と僕は、長友と一緒に長い時間を過ごしたから、彼の凄さはよく知っているし、間違いなく日本代表に大きな価値を加える存在だよ」

――あなたにとって、日本代表チームはどんな存在でしたか?

「佑都以外にも、吉田麻也、川島永嗣、権田修一、本田圭佑、香川真司など……どの選手とも良い関係だった。選手やスタッフ、日本人とイタリア人に関係なく最高のグループだったし、まるで家族のようだった。アルベルト(・ザッケローニ)は日本の文化に敬意を持っていたが、僕たちイタリア人スタッフもみんな同じ気持ちだったから、すべての物事がスムーズに進んでいたし、日本代表での仕事は本当の喜びだったよ」

――日本代表のスタッフとして長年仕事をするなかで印象に残っている思い出は?

「アジアカップ優勝、東アジア選手権優勝(現E-1選手権)、W杯……勝った試合も負けた試合も、どれも美しい思い出だよ。試合以外では天皇陛下(現在の上皇陛下)にお会いできたことも印象深い。日常生活では決して経験できないことに誇りを感じたし、心の底から感動したよ」

(倉石千種 / Chigusa Kuraishi)



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倉石千種

くらいし・ちぐさ/1990年よりイタリア在住。1998年に中田英寿がペルージャに移籍した時からセリエAやイタリア代表、W杯、CLをはじめ、中村俊輔、本田圭佑、長友佑都、吉田麻也、冨安健洋など日本人選手も取材。バッジョ、デル・ピエロ、トッティ、インザーギ、カカ、シェフチェンコなどビッグプレーヤーのインタビューも数多く手掛ける。サッカーのほか、水泳、スケート、テニスなど幅広く取材し、俳優ジョルジョ・アルベルタッツィ、女優イザベル・ユペール、監督ジュゼッペ・トルナトーレのインタビューも行った。

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