日本代表で気がかりな“GK経験値” ロシアW杯と状況酷似…ベテラン不在の解決策は?【コラム】

現在は鈴木彩艶が正守護神を務める
2026年アメリカ・カナダ・メキシコワールドカップに出場を決めた日本代表において、今一番起用方法が難しいのはGKだ。現在、森保一監督は鈴木彩艶(パルマ/イタリア)をファーストチョイスにしている。もっとも、代表チームでの鈴木は常に順調だったわけではない。
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2023年10月17日、神戸で開催された親善試合の日本vsチュニジアでデビューした鈴木は後半アディショナルタイム、冨安健洋のバックパスにタイミングが合わず空振り。詰める相手選手がいなかったので難を逃れたが、決定的な場面を作ってしまった。
この翌日、森保監督に今後のGKの起用をどうするか尋ねたところ、森保監督から「彩艶は不安でしたか?」という逆質問がきた。そしてなぜピンチを招いたかという分析のあと、「(いろいろな選手を起用することで)戦術の幅を1つ広げるというか、大きくするところになると思いますので、いろんなトライをしていきたいと思います」という説明を受けた。
また2024年カタールアジアカップでも、鈴木のパフォーマンスはまだ代表の正GKとして常時出場できるようなものではなかった。まだ出場経験のない野澤大志ブランドン(FC東京)は選べないにしても、鈴木よりも8歳年上でGKとしての経験を積んでいる前川黛也(神戸)という選択肢はあった。それでも森保監督は鈴木にこだわり使い続けた。
そこでグループリーグ第3戦、インドネシア戦が終わったあとに鈴木を使い続ける理由を森保監督に聞いてみた。そのとき監督は「本人にもプレッシャーがかかっていたと思いますけど、まだ彼は若いですし、これからいろんな経験を積んでさらに大きくなってもらうという部分、ある意味厳しいですけど、試練を与えて、その中でチームの勝利に貢献してもらって、また成長してもらいたいという思いはありました」と意図を明かしている。
経験豊富なベテランGKが不在
森保監督はワールドカップ・アジア2次予選で大迫敬介(広島)を2試合、谷晃生(町田)と前川を1試合ずつ起用したものの、残りはすべて鈴木を使った。またアジア最終(3次)予選ではすべての試合のゴール前に鈴木を立たせた。
最終予選が始まったときから鈴木がすべてよかったかというと、そうではない。2024年10月15日に開催された日本vsオーストラリアで日本は予選の初失点をするが、そのときのきっかけは、相手選手に詰められた鈴木が左足で蹴ったボールを相手にカットされた場面から始まったのだ。
それでも森保監督の粘り強い起用と、鈴木がパルマに移籍して経験を積んだことが今のパフォーマンスにつながっていると言えるだろう。また鈴木の成長は目覚ましく、日本代表での練習を見ても2024年と2025年3月では大きな違いがあった。正確性が増し、大きな身体を十分に使うようになった。谷は鈴木を「自信が変えた」と分析している。
ミスがすぐ失点につながってしまうGKには、いろんな状況に対応できるよう経験が必要だ。このまま鈴木を使い続けて十分な経験を積ませてワールドカップを迎えればいい。2010年南アフリカワールドカップで川島永嗣(磐田)が起用されたとき、それまでの川島の代表出場は10試合。それに比べれば鈴木はすでに18試合に出場しており、ワールドカップには問題ないだろう。そう考えてもいいかもしれない。
もちろん順調にいけば乗り切れる。しかし、実は2018年ロシアワールドカップのときと同じ状況にも陥りかねないのだ。
2010年南アフリカワールドカップでは、もし川島が出られない状況になっても代表76試合出場の楢崎正剛が控えていた。2022年カタールワールドカップで権田修一(デブレツェニ/ハンガリー)が起用できなくても、代表95試合出場の川島がベンチにいた。
だが今選ばれている鈴木以外のGK、大迫は8試合、谷は2試合にしか出場経験がない。これは2018年ロシアワールドカップで川島以外に選ばれていたのは出場4試合だった東口順昭(G大阪)、3試合の中村航輔というときよりもわずかにいい程度だ。
アジア最終予選2試合での起用法はどうなる?
ロシアワールドカップのグループリーグ初戦、FKで飛ばないはずの壁が飛んだことで日本は失点した。そのとき川島に大きな批判が集まったが、そこで川島が精神的に崩れなかったことで残りの試合もゴール前に立つことができた。しかし代えることが難しかったという部分もあっただろう。
今後、鈴木にはもっと経験を積ませたい。しかし、そうすると今の控えの選手たちは経験不足のまま本大会に臨まなければならない。しかも最近の試合で代表候補の選手たちのミスが目立ってしまっている。
もちろんそれぞれのプレーには単純なGKのミスとは言えない部分がある。谷のキックミスは直前でボールがイレギュラーした。前川のクリアミスは味方との連携の部分も考慮しなければならない。野澤が相手にボールを奪われた場面は味方がもっと早くパスコースを作ってあげてもよかった。何より、どのGKもこれまで多くのピンチを防いできた。
もっとも、そうだとしても、もし同じ場面が日本代表戦で起きていたらその後はもう選ばれなくなってしまう可能性すらある場面だった。これでは、森保監督がますます起用しづらくなってしまう。
2026年ワールドカップ本大会までに残されたFIFAインターナショナルマッチウイークが6回。その期間にできる試合が12試合しかないことを考えると、鈴木以外にどれくらいの試合数を割り当てるか、ワールドカップを睨んで方針を決めるべきときが来ている。
その残り12試合のうち、親善試合でないのは6月のアジア最終予選2試合。日本はワールドカップ本大会出場を決めたが、グループのほかの国はまだどこも出場を決めていない。逆に言えばどの国もチャンスを持っている。6月のオーストラリア、インドネシアはどちらも親善試合とは違う意気込みで臨んでくるのは間違いない。
そんな公式戦でプレーできるかという経験値は大きなものだ。このとき、鈴木以外が起用されるかどうかはその後を大きく占うだろう。6月に森保監督が誰を起用するか。そしてそのときまでに誰が起用したいと思わせるようなプレーを見せるか。この4月から6月は特に大事な期間となる。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。