欧州挑戦中の日本人に世界的名手から“獲得”直電 新天地でファン大挙→説教の異例事態に驚愕「マジか!」【インタビュー】

ラトビアでプレーしていたMF横田大祐に元Jリーガーから直電「誰だろう?」
現在ドイツ2部カイザースラウテルンで中心選手として活躍している24歳のMF横田大祐。ラトビアでプレーした当時、かつてJリーグでもプレーした世界的名手から獲得を希望する直電があったという。新天地では強面のファンがチームのミーティングルームに大挙し、不甲斐ない戦いぶりについて選手に説教する異例の出来事も起き、「『マジか!』ってびっくりした記憶があります」と懐古した。(取材・文=中野吉之伴/全4回の2回目)
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日本からドイツに渡り、コロナ禍を経てラトビアでプレーする機会を得ていた横田の下に見知らぬ番号から電話があったのは2023年初頭。「誰だろう?」と不安に思いながら電話に出ると、声の主はかつてヴィッセル神戸でもプレーした元ドイツ代表FWのルーカス・ポドルスキだった。
ポーランド1部グールニク・ザブジェでプレーするポドルスキが横田を獲得したいと直談判してきたのだ。ポドルスキはどのように興味を持ったのか。横田が当時の事情を明かしてくれた。
「ポドルスキがポーランドメディアで話していたんですけど、僕がとあるチームとサインする予定でトライアウトをして、練習試合にも出たんですが、結局その話がなくなった。ただ、その時の対戦相手のコーチが元ドイツ代表でポドルスキのチームメイトだったそうなんです。獲るって決めて連絡してくれたんです。ポドルスキも最初は『いやいや』と懐疑的だったみたいですけど、でも結局信じて獲ることに決めたって聞きました」
閉ざされたと思われた扉の隣にはもっと大きな世界への扉があった。さまざまな縁が横田へとつながっていく。ラトビアからポーランド1部へ移籍したあとも、手にしたチャンスを生かして次につなげていく強さが横田にはあった。
「最初チームが上手くいってなくて、何かを変えなきゃいけないという時に、ポンッてスタメンで出させてもらったんです。そこから1年間試合に出てましたね」
ポーランドファンからまさかの説教「はいって言うしかないですよね(苦笑)」
契約書にサインをして、チームに合流して約2週間後に訪れた最初のチャンスを生かして、自分の居場所を確立する。新しいチームにすぐ順応するタイプもいれば、少しずつ探りながら馴染んでいくタイプもいる。その点で横田は、変に肩に力を入れすぎずにスムーズに自分のプレーを表現できていると自己分析する。
「今振り返ったらそういうタイミングで(自分のパフォーマンスを)出せているかもしれないですね。リラックスしているタイプなので、試合前も『そのままいつもどおりやったらいけるだろう』って。いつもそのマインドセットですね」
いつもどおりのプレーといっても、それぞれの国にはそれぞれの特徴があり、雰囲気もまた違う。ポーランドのサッカーファンはテレビ映像を見るとかなり荒ぶっているイメージが強く、実際の印象を横田に尋ねてみると、「そのまんまです。危ないですよ」と笑いながら答えてくれた。
直に感じてみて、他国リーグとの迫力に違いはあったのか。横田は「違います、違います!」と即答し、「1回怖いことがあって……」と続け、当時のエピソードを明かしてくれた。
「ピッチ内にファン乱入とかたまにあるじゃないですか。その時はチームミーティングをしている時にファンがワーってなだれ込んできたんです。実際にはアポを取っていたらしいので、乱入ではないのかもしれないですけど。それで1時間ぐらい説教くらって。俺まだ入って3週間ぐらいだったから、『マジか!』ってびっくりした記憶があります」
グールニク・ザブジェはポーランドリーグ優勝14回を誇る古豪だが、1988年以降タイトルから遠ざかっている。昔からのファンは黄金時代を知るだけに、思うところもあるのだろう。強面ファンがミーティングルームに大挙し、不甲斐ない戦いぶりについて選手に説教する。想像するだけでもブルッとくるものがある。選手や監督はどういう思いでファンの“説教”を聞いていたのだろう。
「まぁ、はいって言うしかないですよね(苦笑)」
どちらの心中も察する。そんな迫力あふれるリーグでも横田はコンスタントに自身の良さをピッチで発揮していく。印象深い試合として、2023年10月ホームで行われた前年度王者ラクフ・チェンストホヴァとの試合を挙げてくれた。
「去年優勝したチーム相手の試合で、自分が2点取って勝ったんです。そこから結構変わっていったというのがありますね。いろんなクラブがフォローし始めてくれて。その流れもあって結局ベルギー移籍も決まったという感覚があります」
「ラトビアでサッカー選手をやっている」と明かせない時期があった訳
ビッグゲームで目に見えた結果を出すと注目度が一気に上がる。お目当ての選手よりも目立っている選手がいるため、急遽動くという話はよく聞く。ネットワークがある欧州ならではのスピード感だ。
「なんか海外だなって思います。あとで聞いたら、ほかの選手を見に来ていたらしいんです」
ポーランドをステップアップの場として欧州トップリーグへ移籍を果たす選手も多い。そうしたイメージを横田自身も持ちながらプレーしていたという。
「そうですね。今もですけど、今までどういった選手がその後どういったところに行くとかはチェックします。ポーランドからいろんなとこに行っているのは知っていました。だったら俺もそれに乗りたいという感じで考えていましたね」
ラトビアからポーランドへ渡り、ベルギーリーグのクラブから声をかけてもらえるところまできた。プロサッカー選手として少しずつ視界が開けていく感触が生まれていく。だがそれはこれまでの所属先が良くなかったというわけではない。実はラトビア時代に、人には明かせない思いもあったという。
「みんなが知らないことが大変だったかな。自分の環境とかで大変だったことは特にないんですけど、ラトビアを日本のみんなが知らないっていうのがあった。ラトビアでサッカー選手をやっているっていうのを人に言えなかった時期もあった。ただ、ラトビアに対してリスペクトがないとかになるのは嫌だし、それは違う。週末にいっぱい人がいる前でサッカーができる幸せがありましたから」
人は何かと比較しがちだ。ラトビアとポーランドはどちらがいいのか。どちらのほうがレベルは上なのか。どちらのほうが住みやすいのか。分かりやすい物差しを持つことはできるかもしれない。だが、違いと優劣は違う。どの国にもメリットとデメリットがある。素敵なところと改善したほうがいいところがある。それはあくまで「違い」でしかない。
ラトビアで横田はサッカー選手として大事な一歩を踏んだ。ラトビアへの、古巣クラブへのリスペクトを今も忘れず大事にしている。それは海外で戦う人間として、とても大切な心持ちではないだろうか。
※第3回に続く
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。