日程の妙が生んだ史上最速切符 W杯優勝へ…森保ジャパンを待ち構える“宿命”【コラム】

日本代表の最終予選を振り返る【写真:徳原隆元】
日本代表の最終予選を振り返る【写真:徳原隆元】

昨年9月に始まった最終予選の歩みを振り返る

 2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終(3次)予選で8試合を終え、日本代表は6勝2分、24得点2失点と圧倒的な成績で本大会進出を決めている。

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 この成績は日本代表チームが完成度を上げたことが一番の要因だ。だが、それ以外にも日程の妙があった。また、この日程が生み出した状況が、3月25日のサウジアラビア戦で引き分けに終わった要因でもある。この点は冷静さを忘れずにいたほうがいいだろう。

 ではこの最終予選を振り返ってみよう。

 2024年9月25日、日本は中国をホームに迎えた。正直に言えば、中国は日本との実力差を見誤っていた。また、日本が前半2点しか挙げなかったこともブランコ・イバンコビッチ監督の判断を誤らせたのだろう。日本は後半に5点を挙げ、7-0と大勝した。

 9月11日のアウェー・バーレーン戦は、コンディションの差が出た。日本は海外組がヨーロッパに戻る途中に試合ができた。そのため時差対策が行いやすかったという。一方のバーレーンはオーストラリアとの死闘を1-0で制し、帰国したばかり。実は日本のほうがいい状態で試合に臨むことが出来た。

 そのため日本は後半怒濤のラッシュで4点を奪い、合計5-0で勝利を収めた。バーレーンは2024年年末から2025年1月にかけて行われたガルフカップで優勝していることを考えると、ここまでの実力差はなかったと思っていいだろう。

 この2つの大勝に、10月10日に対戦するサウジアラビアは方針を変更した。それまで4バック中心に戦っていたが、ロベルト・マンチーニ監督は3バック、もっと言えば5バックにして守備を固めたのだ。

 日本代表は事前にサウジアラビアの動きを読み、3バックでも4バックでもいいように対策をしていた。試合が始まってすぐ、森保一監督は相手が3バックであることを選手に伝え、この試合を2-0で勝利した。それでもこの試合のボール支配率はサウジアラビアが上回っていた。

 10月15日のホーム・オーストラリア戦はお互いにとって大きな山場だった。オーストラリアは初戦のホーム・バーレーン戦を0-1で落とし、2戦目のアウェー・インドネシア戦で0-0で引き分けてしまっていた。3戦目のホーム・中国戦を3-1で勝ったものの、日本戦に敗れるとグループの2位以内確保が難しくなるというゲームだったのだ。

 しかもオーストラリアの調子は決して良くなかった。ただし日本もサウジアラビアからの移動で決してコンディションがいいとは言えなかった。そしてお互いにオウンゴールで1点ずつ奪い合い、ともに傷がつかない1-1の引き分けで終えた。

 11月15日のアウェー・インドネシア戦は、もともと実力差が大きい相手との戦いだった。それでも日本をよく知るシン・テヨン監督は効果的な守備を見せる。だが35分にオウンゴールで日本が先制すると、インドネシアの緊張の糸は切れてしまった。

 11月19日、中国のアウェー戦でイバンコビッチ監督は禁断とも言える手を使ってきた。ピッチの横幅を狭めて日本のサイド攻撃を封じようとしたのだ。しかし、策士策に溺れると言うべきだろうか。横幅が狭いため、余計に精度が上がったCKから小川航基が決めて先制点を挙げ、追加点もCKから町田浩樹、板倉滉とつないで決めた。

サウジアラビアの5バックを崩しきれなかった【写真:Noriko NAGANO】
サウジアラビアの5バックを崩しきれなかった【写真:Noriko NAGANO】

サウジアラビアがまさかの“選択”

 3月20日にホームで対戦したバーレーンは、この予選の中でもっとも堂々と日本に向かってきた相手だった。ガルフカップチャンピオンとなり、自身も持ち合わせていたのだろう。またドラガン・タラジッチ監督は明確に明かさなかったものの、日本を崩すアイデアを持っており、もしもバーレーンの選手にシュート力があればピンチになっただろうという場面も作られた。

 それでも個の質の高さでバーレーンを2-0で下す。そして3月25日のサウジアラビア戦がやってきた。ここで森保監督は読み違いをする。

 マンチーニ監督に代わって就任していたのはエルベ・ルナール監督。2022年カタールW杯アジア最終予選でも戦っており、そのときはアウェーで0-1と敗れた。またホームでは2-0で勝利を収めたものの、サウジアラビアがボール保持率で上回った。

 森保監督はルナール監督の相手を圧倒しようとする采配と、これまでずっと相手にボールを支配される展開だったことを考え、今回もサウジアラビアが4バックで試合を支配しようとすると読んでいた。

 伊東純也は試合後「(サウジアラビアは)普通に4枚でやってくるっていう予想でしたけど、アップの段階で相手が5(バック)にしてくるっていうのはわかってたんで。でも、サウジとは何回もやったことありますけど、こんなに引いてくれるのは初めてだったんで、ちょっとびっくりしました」と語っている。

 バーレーン戦で起用したFWは上田綺世と町野修斗。サウジアラビア戦では前田大然と古橋亨梧だった。前田は何度かチャンスを作ったものの、本来なら両選手とも相手の裏にスペースがあるときに使いたかったはず。縦に通すパスが上手い田中碧にしても、もっとオープンな方が戦いやすかっただろう。森保監督が読んだ試合展開とは違い、サウジアラビアは自分たちのサッカーを放棄して臨んできた。

 試合後、ルナール監督は「美しい試合ではなかったです。つまり、ショーという意味では申し訳ないです。しかしながら、組織はしっかりと維持しました」と振り返った。いつも強気な監督が、何が何でも勝点1以上を持ち帰ろうと采配を変えたのは、まずはチームにけが人が続出しているという現状があったからだろう。

 しかし、それ以上に日本代表が相手チームにプレッシャーを与えているという証でもある。2024年9月の2試合を終えたときから、このグループBは日本が相手国に恐怖を与えている。その心理的効果もあって日本はうまく戦えたということだ。

 もっとも本大会を考えると難しくなったという面もある。2022年カタールW杯ではドイツ、スペインに囲まれた日本への警戒心は薄かった。だがこれでもう日本が軽視されることはない。相手の油断もない。これまで以上に対策も取られるはず。それでも日本が強豪として定着していくために、これは通らなければならない道。願わくば、このままずっと相手にプレッシャーを与えて突き進んでほしいものだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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