史上最強チーム、唯一の1年生…メキシコ留学で衝撃 背後からタックル「目つき違った」

日章学園で唯一1年生レギュラーとして躍動を見せた吉崎太珠
昨年、高岡伶颯(サウサンプトン)と南創太(ベガルタ仙台)の2枚看板を要し、日章学園(宮崎)が高校サッカー界で大きな注目を集めた。史上最強チームにおいて、唯一1年生レギュラーとして躍動を見せたのがMF吉崎太珠だ。
裏抜け、クロスからの飛び込み、ワンタッチシュートなど多彩なゴールアプローチを持つ彼は、高岡を負傷で欠いたインターハイではチーム内得点王としてベスト16進出に貢献し、選手権ではポジションをボランチに移して、安定したキープ力とパスセンスを見せた。
新チームが立ち上がり、心身ともにチームの中枢となるべく期待を背負う彼は、九州新人大会が行われていた2月にチームを離れてメキシコの地にいた。
スポーツメーカーのアディダスが育成年代応援プロジェクトとして立ち上げた『JFA アディダス DREAM ROAD』の一環として約2週間、メキシコの名門クラブであるUANLティグレスへの短期留学に参加をしたのだった。
「初の海外がメキシコなので、最初は全く想像がつかなかったのですが、いざ行ってみると刺激と学びの連続でした」
選ばれた他の3人の選手と共に、ティグレスのU-17チームの練習に参加し、選手寮で生活を共にした。
「ピッチ内ではとにかくハードワークをするのが当たり前の環境でした。ハードワークは自分の中でも得意としていたのですが、彼らは目つきが違った。最後の最後まで足が出て、球際に一切迷いがないんです。平気で後ろからもスライディングが来て、ファールでも止めてやる、抜かれたら絶対に止めるという気迫がすごくて、歩いている暇はないほど常に気を張っていないといけない状況だった」
ティグレスのあるメキシコ北東部の主要都市であるモンテレイには、同じ本拠地を置くCFモンテレイというビッグクラブがあり、この2クラブは常に国内タイトル、北中米タイトルを争い続けている。それだけに激しい競争だけではなく、ライバルクラブに負けられない強烈なプライドを持っており、その日常はまさにサバイバル。特にシュートへの躊躇の無さは吉崎にとって衝撃的だった。
「本当にシュートを打つことにも一切迷いがないんですよね。常にシュートを打つことをFWだけじゃなくMFもDFも全員が狙っていて、コースが空いたら迷わず打つ。『絶対に自分が決める』という気持ちが1人1人強いからこそ、チームとしても強いんだと思いましたし、FWとしてめちゃくちゃ刺激になりました」
寮生活も彼らのオンとオフの切り替えや、陽気な雰囲気も魅力的に映った。「タコスをはじめとしてご飯が美味しくて。食事中もみんな明るいし、音楽をみんなで楽しんだりと、日本とは文化の違いを感じました」と、最初は戸惑いながらもすぐに慣れてくると、自分の中でもサッカーに対する向き合い方に変化が生じてきた。
そして、最も刺激的だったのが、チームに複数人いる年代別メキシコ代表の選手たちだった。吉崎も昨年、U-16日本代表候補に選ばれた経験を持つが、「目つきが違ったというか、U-17メキシコ代表のGKの選手が代表から帰ってきた時に一緒に練習したのですが、堂々とプレーしていて、FWに対する威圧感はもちろん、何より貪欲練習に取り組んだり、発言をしたりしていて、技術もメンタル共に圧倒的な存在でした」と、国を代表する心構えも学ぶことができたという。
刺激しかない2週間を終えて帰国した彼は、日章学園の一員として3月中旬に行われたJヴィレッジカップに出場。トップ下としてドリブル、パス、シュートで攻撃を牽引するだけではなく、攻守の切り替えのスイッチを入れる役割として素早いフォアチェックとプレスバックを献身的に行う姿が印象的だった。
「メキシコから帰ってきて改めて思ったのが、伶颯くんの存在の凄さでした。メキシコの選手たちはギラついていましたが、よく考えると伶颯くんも同じ、それ以上のギラつきを持っていました。代表から帰ってくる度にオーラが生まれて、より結果にこだわると言うか、普段の練習中でも『負けたくない』という気持ちを常にプレーと声で表現していた。一緒のチームだったのでちょっと感覚が麻痺しているところもあったのですが、一度外の世界を見てみて、改めて凄さを感じましたし、『こういうことだったのか』という気づきもありました」
芽生えたのは本物のチャレンジャーの思考と、「伶颯くんが日常としてやっていたことを今度は僕がやらないといけない」と、チームを牽引していかなければいけないという自覚だった。
「ハードワークの面でも自分が誰よりも走って、喋って、結果を出したいという思いがより強くなりました。今年のチームも昨年並みに力があると思うので、インターハイ、選手権でも昨年の成績を超えて、上位に食い込めるようにしたいです」
今年はFW、トップ下、ボランチと複数起用が考えられるが、真っ直ぐにゴールを目指した鋭い眼と、何がなんでもボールを奪い返すという獰猛さが、さらなるスケールアップに導いてくれるに違いない。九州が育んだ注目の2年生アタッカーから目が離せない。
(FOOTBALL ZONE編集部)