名門出身の22歳が首位撃破「何百回も観るかなって思います」 初ゴールの裏にあった“頭脳”【コラム】

筑波大から加入したMF角昂志郎が千葉戦で決勝ゴール
ジュビロ磐田は3月30日、J2第7節でホームのヤマハスタジアムで開幕6連勝のジェフ千葉と対戦し、大卒ルーキーMF角昂志郎のプロ初ゴールで奪ったリードを守り切り、1-0の勝利を飾った。これで磐田は勝ち点13となり、3位に浮上。首位の千葉と3差に迫った。
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「本当にお待たせしましたって感じです。自分自身もそうですけど、ずっとゴールを待っていましたし、ヤマハスタジアムで初ゴールを決めるとは。何百回も自分のゴールシーン観るかなって思います(笑)」
そう喜びを表したのは決勝点を決めた角だ。筑波大学時代に天皇杯で、プロチームを相手にゴールを奪ったこともあるが、今季6試合目、A契約を締結した最初の試合で、初ゴールとなった。GK阿部航斗を起点に、自陣で左センターバックの上夷克典、左サイドバックの松原后とつないで、千葉のプレスを引きつけると、松原が左足で縦にロングフィードを送る。
2列目の中央から左斜めに飛び出した角は、千葉のセンターバックである鈴木大輔の背後に抜け出してボールをコントロール。ボックス内の左側で鈴木に追い付かれたが、中に切り込むと右足でゴール右隅に突き刺した。ここまで抜群のセーブ力で千葉を救ってきたGKホセ・スアレスも防ぐことはできなかった。
「(マテウス・)ペイショット選手に、かなりタイトに来ていたので。その背後が空くと分かってました。そこで自分のスピードを生かして、綺麗に裏を取れたので。自分の積み上げとチームの積み上げがうまく重なったシーンだったかなと思います」
そう角が語るのは、4-2-1-3のセンターフォワードを担うペイショットのディフェンスを引き出す動きだ。千葉は4-4-2をベースとするが、相手陣内にハイプレスをかける時はマンツーマンになるため、そこで例えばFWが中盤まで下がってパスを受けにくると、センターバックの一人がそのまま付いてくる傾向がある。
このシーンでは上夷から松原にボールが出るところで、ペイショットの引く動きに右センターバックの鳥海晃司が引き出されたことで、磐田から見て左前にスペースが生じ、角がワイドに飛び出すことで、松原のロングパスをフリーで受けることができた。同時に左ウイングの倍井謙も角より下り目のポジションにおり、千葉の右サイドバックである高橋壱晟も高めのポジションになっていたことで、トップ下の角が背後を狙いやすかった。
「相手ディフェンスと1対1だったので。あとから映像で観たら、倍井選手がインナーラップしてましたけど、正直見えてなかったですし、抜いて決めるというのは自分らしさでもあったので。本当に角昂志郎らしさが詰まったゴールでした」
俯瞰的に見れば、倍井へのパスも含めていくつかの選択肢があったのは確かだが、角は「本当に見えてなかったんですよ。ゾーンみたいなのに入っていて、1対1だったので。かわしてシュート。それしか考えてなかった」とその瞬間のビジョンを語った。前節のベガルタ仙台戦では得意のドリブルからペナルティエリア内でファウルを獲得したが、結局PKキッカーはMFジョルディ・クルークスに。角が引き下がる形で、プロ初ゴールはお預けになっていた。その時は悔しい表情を見せた角も、夢にまで見たヤマハスタジアムでの初ゴールに。角も「仙台戦のPKがあったからこそ、より嬉しいゴールになりました」と振り返る。
筑波大からのプロ入りが内定した当時、磐田はJ1だった。角も特別指定選手としてチームに帯同していた時もあるが、筑波大にとってもタイトルがかかるような大事な試合があり、リーグ戦は1試合しか出られずに、最終節でJ2降格となってしまった。ルーキーイヤーながら、10得点10アシストという目標を掲げているのも、個人の記録だけでなく、磐田をJ2優勝、J1昇格に導く思いが込められている。
サッカー人生で一度しかないプロ初ゴールに関しては「何百回も自分のゴールシーンを観るかなって思います」と喜ぶが、試合中は追加点となる次のゴールを貪欲に狙いながら決め切ることはできなかった。「自分の中で複数得点を取れないのが課題なので。これから複数得点に向けて、また練習していきたい」と前を向く角が、ここから磐田をさらなる躍進に導いていけるか注目していきたい。

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。