川崎とJリーグ好敵手の一大行事 Jリーグに正真正銘の「クラシコ」が誕生したら…【コラム】

川崎がFC東京に3-0で快勝した【写真:Getty Images】
川崎がFC東京に3-0で快勝した【写真:Getty Images】

FC東京がホームで川崎を迎え撃った多摩川クラシコ、必然の3ゴールで勝負あり

 45度目の多摩川クラシコが行われた。

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 この名称がどこまで広域に浸透しているのかは不明だが、少なくとも両チームの選手たちは重みを受け止め、とりわけチャレンジャーの立場となるFC東京の選手たちのモチベーションを十分に高めたようだ。

 ホームの味の素スタジアムで、FC東京は序盤から厳しいプレッシングを敢行し、逆に受けに回った感のある川崎フロンターレを押し込んだ。川崎の左サイドバックの三浦颯太は、FC東京のウイングバック白井康介に迫られてロングボールを選択するシーンもあったし、立て続けに俵積田晃太や佐藤恵允らがゴールを襲った。
 
 FC東京の松橋力蔵監督が「試合の入りは、攻守ともに狙ったことを表現できていた」と手応えを感じ、一方川崎の長谷部茂利監督は「もう少し早くボールを奪いたかったが、それができずに攻撃面でトレーニングしてきたことが発揮できなかった」と首を傾げる展開だった。

 しかし後半開始からは川崎がボールを支配して敵陣で試合を進めるようになると、明らかな質の違いが表れ始める。復帰した大島僚太が、トップ下の脇坂泰斗とともに攻撃のタクトを揮う川崎は、両サイドから押し上げる佐々木旭や三浦らが絶妙な味付けを施し、余裕を持ってFC東京の守備網を切り崩し必然の3ゴールで突き放した。
 
 もちろん、この結果にFC東京側のゴール裏からはブーイングが飛んだ。だがむしろこれまでの試合を振り返れば、前半はFC東京の善戦により互角の攻防が成立した試合だった。後半露呈したように、FC東京のディフェンス陣は受けに回れば対応が難しい。そこで前半から飛ばしに飛ばして前がかりの試合を挑み、高宇洋、橋本拳人の両ボランチが上下動してサポートに入りながらビルドアップを支えた。ただし善戦はできても、依然としてゴールへの道筋は見えてこない。試合後の松橋監督が「ラスト3分の1の質を上げていかないと」と自省したとおりだった。

 これで通算成績(カップ戦含む)は川崎の27勝9分13敗だという。川崎は昨年後期のホームゲームに続き2戦連続で3-0の快勝劇となった。

「クラシコ」と言えば誰もが浮かべるのは…ダービーの上を行く国民的行事

 このカードが「多摩川クラシコ」と命名されて開催されたのは、2006年11月11日、FC東京のホームゲームからだった。通算成績には、それ以前の試合も入っているが、幕開けはFC東京が5-4と壮絶な打ち合いを制している。しかし翌2007年は川崎がホームで5-2、アウェーでは鄭大世のハットトリックなどで7-0と大勝。弾みをつけた鄭大世は「オレが決めなくても誰かが決めた」と豪語した。

 以後川崎は、J1を4度、天皇杯を2度、そしてリーグカップも1度制する黄金時代に入っていくので、川崎には2度の4点差勝利がある一方で、FC東京側の圧勝と言えば、2017年3月に1度だけ3-0で留飲を下げたのが目立つ程度だ。
 
 もちろん集客の一策として「多摩川クラシコ」と命名した企画そのものに口を挟むつもりはない。しかし「クラシコ」と言えば、誰もが浮かべるのがレアル・マドリード対FCバルセロナの一戦だ。つまり地域対抗色を打ち出すダービーの上を行く国民的行事。現時点のトータル成績は、レアルの79勝35分75敗。今でも世界選抜の様相を呈すレアルに、バルセロナが自前の育成の成果も誇示しながら真っ向勝負を挑む構図は、スペイン国内どころか世界中の視線を集めている。
 
 マドリードの3倍以上の人口を誇る東京には、特に育成面で圧倒的なスカウティングの利点がある。しかし財政面も含めた潜在能力は必ずしも活かし切れていない。逆に風間八宏監督を招聘してから選手の成長を促し、娯楽性の高いサッカーを継続する川崎は、多くの代表選手を輩出しながら、再び長谷部新監督の下で復興をアピールしている。このままでは川崎とともにJリーグを牽引する好敵手が登場し、正真正銘の「クラシコ」が誕生した時に「多摩川」が忘れられてしまわないか心配である。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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