大病患い「寝たきり生活」 膝の骨が壊死…進学後に絶たれたプロの夢「ボロ泣きした」【インタビュー】

M-1グランプリファイナリスト「ジョックロック」ゆうじろー氏が歩んだサッカー人生
漫才日本一を決める「M-1グランプリ2024」で初のファイナリストとなった1人の芸人は、かつてサッカー選手への夢を懸命に追いかけた過去があった。お笑いコンビ「ジョックロック」のゆうじろー氏(吉本興業)は、プロも輩出する名門クラブ、大分トリニータのアカデミーにも所属。道半ばで涙を流したその理由に迫る。(取材・文=金子拳也/全4回の1回目)
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ゆうじろー氏がサッカーを始めたのは、どこにでもある些細なきっかけからだった。「僕の3つ上の兄ちゃんがサッカーをやっていて、兄ちゃんの真似をしていたら無意識に。楽しかったのでどんどんのめり込みました」。小学1年生で入部した四日市南SSC(大分)は、現在J1リーグで活躍するGK西川周作(浦和レッズ)や、MF松原健(横浜F・マリノス)もかつて所属した名門だ。
チームに入る前に見学をしていた時、練習している選手に「なんかえらいリフティング続いている人がおるな」とゆうじろー氏の目を引いた人物。それが松原だった。「当時、健くんのお父さんが監督をやっていたんです。健くんは本当にお兄ちゃん的存在でした」。クラブに入部したのは小学1年生の秋。同じ日に入部したのは、現在イングランド3部バーミンガム・シティで活躍するMF岩田智輝だった。岩田とは常に競い合うライバル関係になっていく。
そうして始まったサッカー生活。小学校高学年に上がる頃には、ゆうじろー氏も「プロサッカー選手になりたい」という思いを明確に抱くようになる。中学に上がると、岩田とともに大分トリニータU-15宇佐に入った。そこで厳しい監督にもまれつつも、“ライバル”岩田と切磋琢磨して成長していく。
そんな折、中学2年生の冬にゆうじろー氏の身体に異変が起こる。「1か月くらいの間、すぐばてるようになって。走れんくなってコーチに滅茶苦茶怒られました。こんなはずじゃないと病んでいたなか、身体の一部がボコッと腫れて病院に行くことになったんです」。小さな病院から最終的には大学病院までたらい回しにされながらさまざまな検査を行った。その結果、悪性リンパ腫が判明しゆうじろー氏は約9か月の入院を強いられることになる。

入院で毎日岩田からメール、母は片道1時間かけてお見舞いに
「変にポジティブなところが自分にはあって、『まだ絶対プロになれる可能性はあるし、逆にこうした経験している人なんて少ないから強いかも』とか思って諦めていませんでした。早く復帰したい。その一心でしたね」
仲間から寄せ書きや、岩田からは毎日心配のメールが届いた。単身赴任の父に代わり、母が片道1時間をかけ毎日病院に通う。治療の影響で吐き気が止まらず、病院食を受け付けなくなってしまうこともあったが、手作りのお弁当を母が持ってきてくれた。ゆうじろー氏も「本当に感謝しています」と、当時の家族の苦労をおもんぱかった。
退院したのが中学3年生の11月。ちょうど最後の大会でチームが敗退した日に病院を出た。退院後も薬の投与が続くなど、まだサッカーができる状態ではなく、高校に上がってもサッカー部でマネージャー活動をする日々。それでも高校2年生の夏、ようやく治療が終わりプレーを再開する。
復帰後まずゆうじろー氏が直面したのが、フィジカルの問題。「ずっと寝たきり生活で、ふくらはぎがなくなって、立たれへんくらい。車いすで移動していた時期もありました」と状況を明かす。“フィジカルがゼロ”からのスタート。体力もなかなか戻らず苦労したが、技術だけは落ちていなかった。高校3年生の夏頃、ようやくフル出場できるようになる。
治療の副作用で「膝の骨が壊死」…涙が止まらなかった
大学は強豪サッカー部のある関西学院大学の指定校推薦を受けた。「高校ではフィジカル戻らないのも分かっていて、大学に行ける高校を選んでいたんです。大学サッカーでまたしっかりフィジカルも作って戻そうと」。自身で考えた進路を見事勝ち取ったが、高校3年の終盤「なんか膝が痛いな」という違和感に気付く。
検査をすると、「薬の副作用で膝の骨が壊死」していた。「折れたらもう、治らない。サッカーはやめた方がいい」と言われてしまう。
「『サッカーを続けるための大学やったのに、辞めなあかんのか』と、ぼろ泣きした覚えがあります。完全にサッカー人生が終わった時。かなりショックがありました」
ここまで大病を乗り越えてきたゆうじろー氏に突き付けられた現実。ポジティブさでようやく掴んだ“夢の橋”が、目の前で崩れた。約1か月、ゆっくりと気持ちを切り替えるしかない。「サッカーしかやってこなかった人生。これからどうすればいいんや」。新たな夢を探すゆうじろー氏の道は、大学で転換期を迎えることになる。(第2回へ続く)
[プロフィール]
ゆうじろー/1998年01月26日生まれ、大分県出身。NSC大阪42期生、吉本興業所属。22年に福本ユウショウとお笑いコンビ『ジョックロック』を結成。23年にNHK新人お笑い大賞を準優勝。翌年も同大会で準優勝、さらにM-1グランプリ2024で初のファイナリストを経験。かつてはプロサッカー選手を目指し、中学時代では大分トリニータのアカデミーに所属。大病を患い治療後に回復したが、身体への影響を考慮して夢を断念した。22年JリーグMVPの岩田智輝(英3部バーミンガム)とは同級生で元チームメイト。関西テレビ放送「水曜はJ!」で初の番組MCを務めている。