イニエスタと再会「覚えているよ」 W杯制覇のスターが認知、元審判が見たJリーグ変革期【インタビュー】

西村雄一氏がイニエスタとの思い出を回想【写真:徳原隆元】
西村雄一氏がイニエスタとの思い出を回想【写真:徳原隆元】

日本と海外を知る西村元国際主審「基本的なところは変わらない」

 Jリーグでは2025年も、審判交流プログラムの一環として普段海外で活躍する審判員を招聘する取り組みを行っている。元国際審判員で、現在はJFA(日本サッカー界)審判マネジャーを務める西村雄一氏に、世界から見た日本の審判界について迫った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也/全4回の4回目)

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 2004年~14年まで国際審判員も務めていた西村氏。ワールドカップ(W杯)の南アフリカ大会(2010年)、ブラジル大会(2014年)の審判員にも選出され、活躍してきた。日本のレフェリーの世界的評価の面について聞くと、「各国のレフェリーもそれぞれの環境の中で頑張っていますよね。ただ前提として、レフェリーの評価は特殊なんです」と、審判界のリアルな事情を説明する。

「トーナメントの決勝や、リーグにおけるダービーマッチなど、重要度の高い試合を担当するレフェリーが優れているという風潮もありますが、実際には違います。実はレフェリーに巡ってくる担当の試合は、いろいろな配慮がされています。当該国だから担当できなかったり、その前の試合で敗者となった国のレフェリーが担当すると“リベンジだ”と捉えられる可能性があったり、同一カードを担当しないようになど……。そういった不平等になりえる可能性をなるべく排除しながら割当が組まれています」

 この点を踏まえると、審判の評価は「担当する試合の重要度ではなく、そのレフェリーがどれだけ目の前の試合に真摯に取り組んでいるか」に焦点が当たるようになっている。西村氏によると、そうした評価や目標は「日本も世界も基本的なところは変わらない」という。

 世界最高峰のイングランド1部プレミアリーグは、審判界でも「“ベンチマーク=目指すべきもの”という立ち位置にある」というが、その他の国々の取り組みと比較しても「日本と大差ないですね」と、西村氏は断言する。審判交流プログラムでやってくる海外レフェリーにも「大きく違うということはない」と言ってもらえることが多い。

 また映像分析システムや、審判へのサポート体制に関して言えば「日本の方が進んでいるよね」という感想をくれることもあると、西村氏は明かした。もちろん国によってサッカーの質や環境など、それぞれ異なる部分はある。そこで今シーズンJリーグが「プレーの強度」の部分で世界へ近づくため変化を求めているのも確かだ。

「2025シーズンのJリーグは少し身体を張ったプレーを選手の理解を得ながら認めていきたいという方向に舵を切っています。海外サッカーから感じる、接触に耐える基準と合わせていきたい……。これは、選手と一緒に取り組んでいくべき課題ですね」

 過去のJリーグでは判定基準の伝達は一方的な伝え方が多かった。「昔は、『判定基準はこうなので、合わせてください』と、今からするとちょっと乱暴なやり方だったかもしれません。でも現在は、選手やサッカー指導者の方々と事前に協議を重ね、導きだした方向性を選手・レフェリーと協調しながら判定基準を変えていきたいとしている。アプローチの仕方が全く異なりますね」。“最大の味方”である選手やクラブと新たな基準を作り上げることを、JFAも目指している。

25年間レフェリーとして活躍をした西村雄一氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
25年間レフェリーとして活躍をした西村雄一氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

イニエスタ氏と日本で再会「とても嬉しかった」

 これまでJリーグにはさまざまなスター選手が舞い降りてきたが、西村氏が一番覚えているのが元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ氏だ。2010年のW杯決勝で第4の審判員を務めていた西村氏。当時決勝ゴールを挙げて母国を優勝へと導いた名手が、まさか日本に来るとは思ってもいなかった。

「W杯の試合でご一緒したあの選手が日本に来るって??? (アンドレス・)イニエスタさん、(ダビド・)ビジャさん、(フェルナンド・)トーレスさん、(ディエゴ・)フォルランさん……、2010年のW杯で大活躍していた方々がまさか日本でプレーするとは思っていませんでした。特にイニエスタさんとは、お互いに当時のことを記憶していて『覚えているよ』と言ってくれました。Jリーグで再び会えたことは、とても嬉しかったですね」

 世界で活躍した名選手たちも、審判とは切っても切れない縁がある。一方でJリーグは、2026-27年シーズンより“シーズン移行”することを決めた。ヨーロッパのリーグと開催時期を揃えることで、欧州圏から新たなスター選手が日本へとやってくる可能性も。デジタルへ移行中の審判界は「あまり変化はなさそうです」と西村氏は苦笑するが、FIFAと各国協会は“VARライト”(費用を削った簡易版VAR)の導入や判定のアナウンスなどが検討される変革期の最中。JFA審判マネジャーという新たな立場となった西村氏は、世界での経験も活かし、こうした課題を乗り越えるために今後も尽力していく。

[プロフィール]
西村雄一(にしむら・ゆういち)/1972年4月17日生まれ、東京都出身。1999年に1級審判員登録。2004年に国際審判員、史上5人目となるプロフェッショナルレフェリー(PR)に抜擢された。Jリーグ通算682試合を担当。2010年南アフリカW杯、14年ブラジルW杯の審判員としても活躍。24年にトップリーグ担当を勇退。現在はJFA審判マネージャーとして後進育成に従事している。

(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)



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