26歳日本人が欧州で壁に直面 リバプール“3番”から助言「本当にありがたい」…英名門3年目【現地発コラム】

リバプール・ウィメンの長野風花【写真:Getty Images】
リバプール・ウィメンの長野風花【写真:Getty Images】

「ディフェンスがほとんど」 4失点大敗のアーセナル・ウィメン戦

「悔しさしか残らない試合」と、リバプール・ウィメンの長野風花は言った。3月22日、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)第17節アーセナル・ウィメン戦は、一方的に攻められた大敗(0-4)に終わった。

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 勝敗の行方は、前半で決していた。リバプールは、同28分からの2分足らずで2失点。アーセナルが、70%のポゼッションを確立していた最中の出来事だ。実際にリードを奪い、ボール支配にさらなる自信も加わった敵は、ハーフタイムを前に素早い連携から3点目。後半にも、裏に走り込んだ速攻から、この日2度目となるオウンゴールを誘って4点差とした。

 2ボランチの一角で先発した長野の74分間は、前半終了間際の一場面に象徴されるかのようだった。貴重なカウンターのチャンス、前線でタメを作った1トップがワンタッチでつなごうとしたが、近距離からのパスは、駆け上がる長野が地面に着いたばかりの前足に当たり、再び相手ボールとなってしまった。

 試合後、本人が振り返った。

「ディフェンスのシーンがほとんどでした。ラインの裏に走っていく(相手)選手を中盤が掴むことになっていたんですけど、なかなか物理的に難しくて。みんな周りに(マークすべき)人をたくさん持っている状態で、ついていくのが難しかった。そこを使われてしまったから、後半ちょっとはチームとして修正したんですけど、アーセナルもすごく良かったし、修正し切れないうちに試合が終わってしまって、(自分たちは)シュートまでも全くいけなかった」

 だが同時に、予想外の大敗だったとも言える。対戦時点でのリーグ順位は、2位の相手に対して6位だが、昨季4位のリバプールには、開幕前にトップ4維持を予想する声もあった。実際には、主力の怪我もあって中位にいるものの、今年2月末の監督交代後は、3戦3勝の再スタート成功でアーセナル戦を迎えていた。3連勝には、同じ相手を下したFAカップ準々決勝(1-0)も含まれる。そのアーセナルは、アウェーでのCL準々決勝第1レグで、レアル・マドリードに敗れてから中3日での対戦でもあった。

「積み上げ」段階にあるリバプール・ウィメン

 にもかかわらず、立ち上がりから見られたリバプールの守勢には、格上に対する警戒心もあったのだろう。この日の会場となったエミレーツ・スタジアムを含め、アーセナルは、ホームでのリーグ戦に計23得点で5連勝中だったのだ。

 暫定指揮を執るアンバー・ホワイトリー監督は、現実重視で結果にこだわるタイプだった前監督に比べると、勇気を持って“プレー”する側面も重視すると見受けられる。言わば、日本代表ボランチが、持ち前のパス能力をより活かしやすい環境だ。

「今日に限っては自分もミスがあったし、チームとしても蹴らされてしまうというか、なかなか難しかった。けど本当は、つなぎもあるんですけど、やっぱりトップに蹴ってそらしてみたいな狙いもあるので、いろいろな形でもっともっとこれから積み上げていければいいかなと思います」

 そう長野が話すように、WSL復帰3シーズン目のリバプールは、まだ「積み上げていくべき」段階にある。昨季の成績も、集団としてプラスアルファの総合力が発揮された結果だ。

 マンチェスター・ユナイテッドを抑え、過去5シーズンで初めて、チェルシー、マンチェスター・シティ、アーセナルとの“WSLビッグ4”の牙城を切り崩しての4位は、トップ4常連組との資金力差を考えれば快挙にも等しい。リバプールも、昨夏にクラブ史上最高額でオリビア・スミスを獲得してはいる。だが、20歳のカナダ代表MFに要した移籍金は、今冬にチェルシー・ウィメンが更新した世界最高額の4分の1未満でしかない。

 かつては男子チームが使用していたメルウッドが、女子チーム専用の練習施設として改築されたのは1年半前。より近代的な専用のホームとして、地元ラグビークラブとのスタジアム共有が始まったのも今季からだ。2014年には連覇を達成した、WSL優勝候補への復活途上にあるリバプールに、年齢的なピークを前に呼び寄せられている即戦力。その1人として、一昨年1月の移籍直後からレギュラーを張る長野もいる。

「こう頑張りたい」、長野が注目する同世代MF

 もちろん、今回のアーセナル戦では、現役強豪との力の差が出た格好だ。劣勢ながらもチャンスらしいチャンスは作らせないかに思われたが、処理に手間取ったコーナーキックから先制点を奪われると、直後には、前から果敢にプレスを掛ける敵の術中にはまってしまう。長野からパスを受けた中盤中央の相棒サム・カーが餌食となり、オウンゴールを招くショートカウンターを浴びた。

 容赦のない格上に対し、リバプールは焦りからか判断が狂い、せっかくのマイボールも、すぐに相手ボールとなって戻ってくる。長野も例外ではなく、敵のパスを読んでのカットやインターセプトを見せる一方で、自らも縦に通そうとしたパスや、1タッチでつなごうとしたパスが敵に渡るシーンが見られた。

 もっとも、このような難しさや厳しさが、WSLというイングランド女子トップリーグの魅力でもある。

「簡単な試合は1つもないし、本当に刺激的な毎日なので、もっともっと成長したい」と、移籍から丸2年が経過した長野。当人には、リバプールにいればこその利点もある。練習場やスケジュールは異なるが、クラブの男子チームには、やはりボランチを本職とする遠藤航というベテランがいるのだ。「ご飯に行った時とかは、サッカーの話もしてくれますし、身近にああいう存在がいてくれるのは本当にありがたい」と言う。

 リバプールの長野というと、個人的に思い起こされる試合がある。厳密には、キックオフ数分で中止になってしまった試合。2023年1月22日、幻の先発デビューとなった敵地でのチェルシー戦は、昼過ぎでも零下で凍ったままのピッチといい、もやのかかった視界といい、始まるべきではない一戦だったのだが、実は開始が待ち遠しい気持ちもあった。エリン・カスバートとの中盤対決を楽しみにしていたためだ。

 ファンの1人としてチェルシー戦を観る場合など、よく注目するスコットランド代表MFは、年齢的に長野と同世代なら、背丈も大差なし。チームの心臓としても頭脳としても機能し、自らのパスで味方を前へと押し進める。あの日も、ガチガチのピッチでタックルに出て太腿に青あざを作っていたように、守りも勢力的だ。

 長野は、アンフィールドでの今季前節マンチェスター・ユナイテッド・ウィメン戦(3-1)で、見事な移籍後初ゴールを決めたばかりだが、カスバートも自ら相手ゴールを脅かす。筆者の中では、どこかイメージが重なる両者なのだった。

 その話をすると、「身体のサイズが大きくないなかで、すごくいい選手だと思いますし、そういう選手がたくさんこのリーグにはいるので、私自身ももっともっと、こう頑張りたいなと思います」と答えてくれた。

 そう言って、長野がスタジアムをあとにした翌日、WSLではリーグ首位を走るチェルシーが、カスバートのダイビング・ヘッドで4位シティから逆転勝利を収め、2位アーセナルとの勝ち点差を8ポイントに戻している。WSL復帰3年目のリバプールも、挑戦3年目の長野も、勝負はこれからだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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