2軍なのに名門校からオファー「驚きでした」 覚悟の入学経て…厳しい現実に直面「悔しかった」

選手権優勝校・前橋育英の新たな主役候補たち【5】四方田泰我
第103回全国高校サッカー選手権大会を制した前橋育英。周囲は祝福ムードに包まれているが、すでに次なる1年へ新チームは立ち上がっている。主軸候補は5人。そのうちの1人が大型ストライカーの四方田泰我(前橋育英)だ。ここでは、彼が胸に秘める思いに耳を傾けながら「優勝のその後」をテーマに物語を紡いでいく。
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183cmのサイズと屈強なフィジカルを持つ四方田は、相手を背負いながらのボールキープやライナー性のボールを胸で収め攻撃の起点になるなど、精度の高いポストプレーで攻撃の起点になれるストライカーだ。
昨年はフィジカルと驚異のスピードを持つオノノジュ慶吏(慶應義塾大進学)と、182cmで裏抜けとボールキープを得意とする佐藤耕太(神奈川大進学)の2枚看板が前線に君臨。その中でも四方田のポストプレーの質の高さは山田耕介監督の目に留まり、高円宮杯プレミアリーグEASTでは13試合に出場をするなど、2枚看板に割って入る存在として大きな期待を集めた。
しかし、四方田はリーグ戦を通じてノーゴールに。一方のオノノジュは得点王となる10ゴール、佐藤も9ゴールを叩き出した。出場時間の差は大きくあるが、選手権に向けて尻上がりに調子を上げる3年生ツートップの影に隠れていくことになった。
「目の前のピッチが物凄く遠く感じた」
背番号9を託された四方田は今冬の選手権1回戦の米子北戦でベンチ入りも、目の前で2人が1ゴールずつ挙げる活躍をベンチで見つめるだけになった。2回戦の愛工大名電戦では平林尊琉ら同級生たちが躍動するなか、再びベンチで80分間を過ごした。3回戦の帝京大可児戦はベンチ外。準々決勝の堀越戦でベンチに復帰したが、やはり出番は訪れなかった。
そして準決勝の東福岡戦でもベンチから戦況を見つめ続け、流通経済大柏との決勝戦はベンチ外という現実を突きつけられ、彼の選手権は幕を閉じた。
「本当に悔しかった。あの2人を超える存在になると心に誓いました」
当然の言葉だ。だが、この後の言葉から四方田のパーソナリティーが十分に伝わった。
「ベンチにいる時はプレミアでも選手権でも常に『出たら活躍する、出たら活躍する』と自分に言い聞かせていました。たとえ出番が来なくても、練習後のトレーニングにその悔しい気持ちをぶつける気持ちで全力でやる。その繰り返しでした。僕にとって育英でベンチに入ることも重要な戦いの1つ。出られないで不貞腐れる時間があったら、その分、僕は練習をします」
なぜ前向きに捉えられるのか。それは彼の中学時代の経験が大きく影響していた。埼玉の強豪クラブであるクマガヤSSCでプレーしていたが、トップの試合になかなか絡むことはできなかった。「それでも目標であるプロサッカー選手になるために一生懸命やり続けることは大事にしました」と、ひたむきに練習に挑み続けた。
中学入学時は170cm前半だった身長も中3時には180cmを超えていたこともあり、ポテンシャルの大きさを評価されて前橋育英から声がかかった。
「Bチームだった僕に声をかけてもらえたことが驚きでしたし、嬉しかった。僕は絶対に高校でスタメンを取ると決めていたし、心の中でずっと僕のサッカーを応援し続けてくれている家族に中学でプレーする姿を見せられなかった悔しさがずっとあって、高校に入ったら必ず見せてあげたいと思っていました。その中で育英のレベルの高さは十分に分かっていたし、かなり厳しい競争が待っていることは分かっていましたが、どうせチャレンジをするなら一番強いところに行って全力を出そうと思って育英に入ることを決めました」
ハングリー精神をパワーの源に「次は僕がトロフィーを上げたい」
覚悟を持って入学したからこそ、どんな時も下から這い上がっていくという四方田のメンタリティーは一切変わらなかった。オノノジュと佐藤に対してもライバル視をする一方で、貪欲に学ぶ姿勢を持ち続けた。
「佐藤さんは僕とちょっと似ていて、ポストプレーを得意とする選手だったので、佐藤さんがどういう身体の入れ方をするのかだとか、ボールがないところでの動きをしっかり見て学んでいました。慶吏さんは裏抜けが凄いのでそのタイミングや狙いを学んでいました」
新チームにおいて彼はエースストライカーとしての活躍が期待されている。プーマカップ群馬ではサイドハーフからコンバートした平林と縦関係の2トップを組み、得意のポストプレーとクロスへの飛び込みで攻撃にダイナミズムを与えていた。
「昨年を思い返すと、あの2人がいるから試合に出られない、自分は来年頑張るという気持ちではなくて、もしチャンスが来たら自分が活躍してそのまま奪い取るつもりでやり続けました。でも、最後のほうであれだけ差が開いてしまったのは、僕がもっと練習から意識を持ってやるべきだったと感じています。もちろん、怠けていたわけではないですが、足りなかったと思いました。だからこそ、今年は何事も貪欲に取り組んでいきます」
熱い決意表明だった。エースストライカーの座は誰にも渡さないし、そもそも自分の立場が安泰だとは一切思っていない。
「選手権王者と周りから見られますが、僕はチャレンジャーであることに一切変わりはありません。今年こそ親には公式戦で点を取る姿をたくさん見せてあげたいし、国立のピッチに立って、次は僕がトロフィーを上げたいなと思います」
大型ストライカーは真っ直ぐな思いとハングリー精神をパワーの源にして、自分の信じた道を迷うことなく突き進んでいく。
(FOOTBALL ZONE編集部)