新生・鹿島で「実質10番」のはずが…古巣復帰→開幕スタメンも暗転、苦悩する俊英の今【コラム】

鹿島へレンタル復帰の荒木遼太郎、シーズン開幕序盤で思わぬ試練
出場機会を増やしていくうえで、“一発回答”とはいかなかったかもしれない。だが、思わず唸ってしまうような“らしさ”の片鱗を見せることはできた。
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Jリーグ開幕の湘南ベルマーレ戦でスタメンに名を連ねたものの、その後、なかなか試合に絡めなかった鹿島アントラーズの荒木遼太郎がおよそ1か月ぶりに公式戦のピッチに立った。3月20日のルヴァンカップ1回戦、J3栃木シティとの一戦だ。試合前の集合写真にいつもと変わらぬ面持ちで収まった。
鹿島のシステムは、通常の4-4-2とは異なり、4-2-3-1。右サイドハーフに左利きの溝口修平、左サイドハーフに縦への推進力に秀でるチャヴリッチ、最前線にスピードと力強さを兼ね備える田川亨介、そして攻撃のクリエイターである荒木がトップ下に入った。ドイスボランチは攻守にわたって足を止めない樋口雄太と舩橋佑。これはつまり“荒木シフト”と言っても差し支えない布陣だった。
背番号71を身に纏う“実質10番”の荒木がこの日、どのようなプレーを見せてくれるのか。鹿島の多くのファン・サポーターが注目していたことだろう。
ところが、今季J1の暫定首位を走る強豪にひと泡吹かせようと、果敢に挑んでくる栃木シティに手を焼いた。最大の要因は、敵地「CITY FOOTBALL STATION」のピッチコンディションにあったように思われる。鹿島の選手たちが、こう言葉を揃えていた。
「スリッピーというか、踏み込むとズルっと滑るような感覚があって、そこに慣れなければいけなかった。立ち上がりからしばらくはセーフティーにプレーすることを心掛けていました」
そんな微妙な心理状態が、さらに相手を勢いづかせたのだろう。最終ラインをなかなか押し上げられない鹿島は、イージーなミスパスも重なり、試合のペースを掴み損ねた。荒木自身、前を向いてボールを受けるシーンが少なく、ファウルも辞さない背後からの激しい潰しにプレーを制限された。
だが、ひと際輝く瞬間があった。前半29分のことだ。ボランチの舩橋からライン間で縦パスを受けた荒木は、速やかにターンし、ゴールに向かってタイミングよく動き出した田川に鋭いラストパスを送る。田川が放った豪快なシュートはクロスバーの下を叩き、惜しくもノーゴールとなったものの、ライン間でボールを受けてから決定機創出までの一連のプレーはまさに荒木の真骨頂だった。
だからこそ、何度でも見たい。そう思わずにいられない魅力が荒木にはある。
後半8分のPKのチャンスでは、キッカーを務めながらも相手GKに止められしまい、痛恨の表情を浮かべた。同18分の交代の際、前髪を止めていたヘアバンドを外しながら、一瞬、天を仰ぐような仕草を見せたが、その胸中によぎったものは何だったのだろう。
およそ1か月ぶりに荒木をスタメンに起用した鬼木達監督に「今日のパフォーマンス」についての評価を求めると、次のようなコメントが返ってきた。
「(ボールを)受ける場所とか、つなぎの部分では決して悪くなかったと思います。ただ、もっともっと(相手にとって危険な)局面、局面に出てこなくてはいけないですし、受けるだけではなく、突破の部分でもっと絡んでいけたら良かったのかなと。守備の強度とか、(チームとして)求めているところはありますが、やはり決定的な仕事をしてほしいです。(荒木にとって)そこが一番の持ち味ですし、そういう場面を増やしていくことが大切だと思いますね」
PKのキッカーに関して「チームの決め事だったのか」と尋ねると、「ピッチの中の選手間で決めたことでした」と鬼木監督は振り返り、こう続けていた。
「タロウ(荒木のニックネーム)が外したからどうとかではなく、勝負事でもありますし、(予め)チームとして決めておいたほうが良かったかもしれません。ただ、PKの練習はしていましたし、練習のなかでタロウは決めていたんでね。そういう意味では、本人が一番悔しいんじゃないかと思います」

開幕戦でスタメンも、チームは躍動感を欠き敗戦
今季から鹿島の新指揮官に就任した鬼木監督が以前、強調していたのが「選手たちに楽しんでプレーして欲しい」ということだった。そして、こう付け加える。
「徹底的に勝負にこだわる気持ちとサッカーを楽しむ気持ちは決して別物ではないと思っています。サッカーをプレーすることが楽しいから躍動感が出てくるし、それによって勝利にも近づいていくと考えるからです」
こうした感性を持つ指揮官が新生・鹿島の最適解を探っていくなかで、期待を寄せているのが狭いスペースでこそ違いを生み出す荒木の卓越したスキルとアイデアだ。Jリーグ開幕前の練習試合やプレシーズンマッチでは、4-4-2システムの右サイドハーフに荒木を起用することが多かったが、「サイドにいるだけではなく、自由に動いていいと監督から言われています。レオ・セアラや(鈴木)優磨くんとか、前線に強烈な2人がいるので、彼らを活かせるようなプレーができたらと思っています」と、鬼木監督の期待に応えるべく、荒木自身もイメージを膨らませていた。
ところが、1月7日のチーム始動から1か月あまりで迎えたJリーグ開幕の湘南ベルマーレ戦ではあふれ出るような躍動感があまり見られず、しかも0-1で敗れたこともあり、サッカーの組み立て方に若干の修正が加えられた。鬼木監督が掲げるスキルフルで、リズミカルで、相手を終始圧倒するようなスタイルの追求をいったん保留。「ある程度、狙いを絞ったなかで、取り組んでいる形が出せるようにしたい」と、プレーの明確化を図り、効率的かつ現実的な戦い方に軸足を移した。
攻撃面では「シンプルに外から」が意思統一され、「真ん中で施す、ちょっとした細工」へのトライがやや薄らいだ。そうした役割でこそ存在価値を示す荒木の出場機会はスタメンを飾った開幕戦以降、突如減少。主たる理由はまさに、ここにあるのだろう。
第2節以降、鹿島は4連勝を飾るなど、チーム状況が一変したこともあり、球際、切り替え、運動量をベースとする質実剛健なサッカーをしばらく継続しそうだ。とはいえ、「シンプルに外から」を繰り返す攻撃だけではいずれ行き詰まるだろう。鬼木監督も現状でよしとは考えていないはずだ。
「真ん中で施す、ちょっとした細工」があってからの「外」。攻撃面におけるその必要性がより高まった時こそ、荒木の出番だ。
J1リーグは約2週間の中断期間を終え、再開。果たして荒木は、出場機会を増やすことができるだろうか。単にピッチに立つだけではなく、チームの勝利に貢献してこそでもあるだけに、そうした働きが存分にできるかどうかが問われる。
自身の置かれた現状に苦悩しつつも、いかに打開し、どのようなストーリー紡いでいくのか。プロ6年目の俊英は今、雌伏して飛翔の時を待つ。