17歳が化け物級ドリブル…会場沸かせた逸材、“株上昇”に戸惑い「正直なところ過大評価」

選手権優勝校・前橋育英の新たな主役候補たち【4】白井誠也
第103回全国高校サッカー選手権大会を制した前橋育英。周囲は祝福ムードに包まれているが、すでに次なる1年へ新チームは立ち上がっている。主軸候補は5人。そのうちの1人が逸材ドリブラーとして注目される白井誠也だ。ここでは、彼が胸に秘める思いに耳を傾けながら「優勝のその後」をテーマに物語を紡いでいく。
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今冬の選手権において、一番の話題になった選手と言っていい。161センチ50キロと小柄なMF白井誠也から繰り出される矢のようなドリブルは、試合を重ねるごとに観客の心を掴んで行った。
途中出場から何十メートルも独走して運んでいくドリブルの動画が、SNS上で小学校時代(バディーSC)に全日本少年サッカー大会で優勝した際のドリブルの動画とともに、大きな反響を生み出した。
「あの大会は本当に注目度がどんどん上がっていくことを感じて、本当に凄いなと思ったし、不思議な感覚でした。嬉しいことではあるのですが、正直なところ過大評価というか、いいプレーだけを切り取られて注目されているという認識がありました。
僕は身体が小さくて当たり負けする部分を決勝で痛感しましたし、選手権が終わって、春の遠征中もいろんな人から視線を向けられたりするし、相手も初対面だけど、ある程度自分のプレースタイルを分かっている状態で来るので、警戒度がこれまでと全く違う。
難しい部分を多く感じるからこそ、ここからより力をつけていかないと通用しなくなってしまう。周りがどう言おうが自分の実力はまだまだと思っていますので、そこにしっかりと目を向けています」
突然沸き起こった「白井フィーバー」に戸惑いながらも、彼は冷静に自分を見つめていた。
「それに結果的に優勝することはできましたが、出場時間が短くてもっと出たかったという気持ちもありますし、ゴールも1点しか決めていないので、まだ足りなかったと思っています」
だが、彼にとって準決勝の東福岡戦で挙げた1点こそが、今後の自分の成長を図るうえで大きな尺度となったという。
まずゴールを振り返ってみる。2-1で迎えた後半13分、自陣で身体を寄せて相手からボールを奪い鋭くターンして前を向くと、ファウル覚悟で止めに来たDFに対して倒れることなく、なぎ倒していくようにドリブルを開始。一気に40m近くボールを運び、右サイドのオノノジュ慶吏(慶應義塾大学進学)に展開。オノノジュの突破からの折り返しを、ドリブルのスピードのままゴール前に侵入し、ダイレクトで右足シュートを蹴り込んだ。
「自分でボールを奪ってからドリブルで運んで周りを使って、飛び込んでフィニッシュする。あのゴールこそ目指すプレーの完成形に近いと思っているので、これから守備をもっと頑張っていくなかで、常に『どうやって攻撃につなげるか』を考えて狙いながら、そのタイミングを見計らってプレーで表現する。あのゴールを再現することが僕の1つの目標であり、基準でもあります」
よりマークが厳しくなり「試練の1年」に
選手権までの白井は前橋育英という激しい競争の中で自らの武器であるドリブルをひたすら磨き続けていた。
それが選手権で大きな華を咲かせたからこそ、次のフェーズは相手から徹底した対策と警戒をされるなかで、いかにドリブルだけではなく周りをシンプルに使ったり、動き直してボールを受けたり、スペースを作る、埋める、生かすというプレーの引き出しを増やしていくことにある。
実際にプーマカップ群馬やU-17日本高校選抜として出場したJヴィレッジカップでも、彼はシンプルなプレーと仕掛けるべきところの使い分けを意識しながらプレーしていた。守備面でも前からの積極的なプレスに加え、敵陣、自陣ともに深い位置までの2度追いや球際へ果敢にチャレンジする姿勢を見せていた。
そして、その先には、再びドリブルに何度もチャレンジして磨いていくフェーズが待っている。原点回帰というか、もう一度ドリブルに特化していくことになるだろう。その時に東福岡戦のようなゴールが表現できた場合、着実に選手権の時とはワンランクもツーランクも上のステージに立っていることの証明にもなる。本人もそれはしっかりと自覚している。
「おっしゃるとおり、同じプレーが次の選手権やプレミアリーグで出せたら成長をしている証だと思います。警戒されているなかでもドリブルができるのが本当に強い選手だと思うし、途中出場ではなく、スタメンから出続けたうえで、あのプレーができたら最高ですよね。そのためにはやはりフィジカル、体力、守備力も身につけていかないといけないものだと思っています」
注目され、騒がれる立場だからこそ、より強い自分を持って現状を見つめ、かつ弱気にならないように日々の練習の中で確固たる自信を積み上げていく。今年は彼にとって「試練の1年」になり、かつ今後の土台となる1年となる。
(FOOTBALL ZONE編集部)