高卒→即海外へ…ドイツ1部で待望初ゴールも「本当に悔しい」 悪戦苦闘で描く成長曲線【コラム】

ボルシアMGでプレーする福田師王【写真:Getty Images】
ボルシアMGでプレーする福田師王【写真:Getty Images】

ボルシアMGで着実に成長を遂げる福田師王、板倉滉も評価「器用だから…」

 20歳の逸材FW、福田師王がドイツに渡って2年が経った。

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 鹿児島の強豪校・神村学園から23年1月にドイツブンデスリーガのボルシアMG・U-23へ加入した福田は、2023-24シーズンにトップチームデビューを果たすと、5試合に出場。今季はリーグ戦26節を終えて、ここまで4試合出場と機会に恵まれているとは言えないが、それでも第17節ヴォルフスブルク戦では待望のブンデスリーガ初ゴールをマークした。

 3月29日の第27節ライプツィヒ戦ではエースストライカーのドイツ代表FWティム・クラインディーンストが累積警告で出場停止のため、「福田を代役に」という声も多い。現地紙「ビルト」が行ったアンケートでは1万1600人のボルシアMGファンが参加し、41%が福田推し。チェコ代表FWトマーシュ・チュバンチャラが1000万ユーロ(約16億2000万円)の移籍金で加入しながら、期待どおりの活躍が全くできていないことにファンの不満が募っていることも影響しているが、福田への期待が高まっているのも事実だ。

 チームメイトで理解者の日本代表DF板倉滉が、福田への評価を口にしていたことがある。

「日本人だからどうこうというのは全くない。練習試合から点を取っている。器用な選手だから、クロスからヘディングでも点を取れるし、足元に入っても点を取れる。一発、ゴール前で仕事できる選手というのは、スタメンでなくてもベンチに置いていれば、途中で入れて何かありそうだなというのはいつも思います」

 第25節マインツ戦では7試合ぶりとなる出場機会を得ると、チームにポジティブな空気をもたらそうと必死にピッチ上で走って戦っていた。ただ出場直後に3-1とリードを広げられたのは痛かった。じっくり守るマインツに対して、ボルシアMGは突破口を見出す機会が少ないまま時間が過ぎていく。
 
 イメージどおりにボールが入ってこない。それでも後半30分、右サイドでボールを受けたクラインディーンストが顔を上げて、ゴール前に走りこむ福田の姿を捉えた。右足で送られたクロスは合わなかったものの、狙うべきところへ飛び込み、そこへパスが出てくるところに、普段の練習から存在感を示せていることを少なからず感じさせた。後半40分にはクラインディーンストのヘディングシュートをGKが弾いたところに詰めるなど、あと少しでゴールというプレーを見せ続けている。

「そうですね、常にセカンドボールに対しては誰よりも早くを意識しているところなので。でも点につながらなかったので、もっと練習から頑張りたいと思います」(福田)

トップチームでの積み上げを実感【写真:岩本大成】
トップチームでの積み上げを実感【写真:岩本大成】

福田が意識する中間ポジション「頭を使って攻略できたらなと」

 トップチームで練習を積み重ねる日々の中で、培ってきたものは確かにある。課題への対処、特徴のアピール。そこへの自信はある。

「自分の中ではできていると思います。ゴールという部分に関しては自分の得意分野で、結果を残していると思います」

 昨季はまだ実力不足を痛感しながらトップの練習に食らいついていた。U-23でプレーしていた4部リーグとは強度もスピードも違う。昨シーズンそのことを丁寧に話してくれたことがある。

「速いですね、シュッて詰めてくるし、身体をぶつけて死に物狂いでくるんで。やりがいがあります。だから動き出しのところ。一瞬で相手を外して足元でもらい、パッと前を向いてシュートができるかとか。ブンデスは速いし、でかいし、強い。素晴らしい選手がたくさんいるので、頭を使って攻略できたらなというふうに思います。相手に触れられないようないい中間ポジションを取って、どのディフェンスが来たらいいのか分からないぐらい、いいポジションに立つっていうことを常に頭に入れてやっている。あと、ぶつかった時は負けないように今鍛えている。成長段階です」

 福田がさらに出場機会を増やすにはどうしたらいいのか。前述のマインツ戦後、ゲラルド・セオアネ監督が記者会見でこんなことを話していた。

「フレッシュな選手を投入したがいい形で攻撃できず、そこから相手の反撃を受けて3失点目。(『クロスが少ないのは勇気がないから?』という記者からの質問に)問題が勇気なのかは分からない。確かにサイドからいい形でチャンスを作ることができなかった」

 クロスが送れないのは、跳ね返されて相手にボールを回収されたらカウンターの危険性が高いとピッチ内の選手が感じているからだ。アクションを起こすことで生じるポジティブな効果よりも、ネガティブな効果が気になってしまう状況と言える。

 クロスを送れば前線の選手がシュートに持ち込んでくれる、あるいは持ち込めなくてもセカンドボールを素早く回収して2次攻撃につなげてくれるという共通理解がチーム全体になければ、積極的にゴール前へパスを送ることは難しい。ゴール前の守備を堅実に固めている相手に対してはなおさらだ。

ブンデスリーガ初ゴールは過去のこと「本当に悔しい」

 マインツ戦での福田はボールを収めるシーンはあっても、そこから相手を外して持ち込んだり、相手守備をずらすプレーが見られたわけではなかった。とはいえチームパフォーマンスとの兼ね合いで、そもそもボールがあまり出てこず、とりわけビルドアップの局面では板倉が欠場していた影響があったのも否めない。いずれにせよ、苦しい局面だからこそ福田にパスを出すという水準まで信頼を積み重ねていく戦いに、今まさに挑んでいる。

 福田が特徴を発揮できるようになってきているのは間違いない。ファンから期待されるだけの得点力があるのも大きな魅力だ。ここから先さらに出場機会を増やしていくには、そうした特徴を発揮することに加え、変化を加えられる場面を増やすことが求められている。

 ヴォルフスブルク戦でゴールを決めたのはもう過去のこと。

「そのあと試合に出られなくなって。本当に悔しいですね。もちろん、たくさん出て、出たからには点を決めてチームを勝たせたいなと思っています」

 マインツ戦後にそう力強く宣言していた福田。ストライカーの気質を身体に宿す。爆発の時を信じて、全力勝負を続けていく。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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