最強“日本代表”は「ブラジルの時に似ている」 “二の舞”回避へ…生かすべきザックJの教訓【コラム】

サウジアラビア戦の引き分けでよぎったブラジル大会の不安【写真:Noriko NAGANO】
サウジアラビア戦の引き分けでよぎったブラジル大会の不安【写真:Noriko NAGANO】

サウジアラビア戦でドローに見えた課題…W杯本戦までに何をすべきか

 世界最速の2026年北中米ワールドカップ(W杯)出場が決まり、「W杯優勝」という壮大な目標に向けて、本腰を入れてチーム強化を進めなければならない日本代表。切符獲得直後の3月25日に行われたアジア最終予選・サウジアラビア戦(埼玉)のスコアレスドローという結果、引いた相手を攻めあぐねた内容を見ても分かるとおり、まだまだ課題が少なくないということだ。

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「ここから先、押し込んだだけで満足ではなく、チャンスを決め切るという部分、監督として次の手を打てるようにプランB、プランCなど今後、力をつけていかないといけない。チームとして戦い方、勝ち切るオプションを作るという課題を与えられた試合だったと思います」

 森保一監督も神妙な面持ちで語っていたが、本当に勝ち切る力をつけなければ、順当に決勝トーナメントに進出しても、2010年南アフリカ・2022年カタール両W杯のようにPK戦で涙を呑むということにもなりかねない。PK戦は時の運もあるし、必ずしも勝てる保証はない。だからこそ、勝負どころで決め切れるチームになることは必要不可欠なのだ。

 そこで気になるのが、今後のチーム強化。1年3か月もの準備期間が与えられると、さまざまなトライができる反面、最終予選の勢いをそのまま本番につなげられないというマイナス面もある。過去のW杯を見ても、比較的順調に予選を乗り切った2006年ドイツ、2014年ブラジルの両W杯は本大会で惨敗している。

 特に今回のチームは「ブラジルの時に似ている」という声が少なくない。というのも、川島永嗣(磐田)、長谷部誠(日本代表コーチ)、本田圭佑、長友佑都(FC東京)ら主力は2010年から14年へとそのまま主力を担い続けた。南アでサブだった岡崎慎司(バサラマインツ監督)、内田篤人(解説者)、サポートメンバーだった香川真司(C大阪)も2大会経験者。こういった欧州組が所属クラブで実績を積み上げ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)などにも参戦したことで、「史上最強」の呼び声も高まった。主力がずっと同じで、個々がレベルアップを遂げているという流れは今のチームと酷似している。

 チームが歩んだ4年間も通じるところがある。2010年秋のアルベルト・ザッケローニ監督就任後、日本代表はいきなりアルゼンチンを撃破。11年にはアジアカップ(カタール)を制覇し、12年には敵地でフランスにも勝利している。翻って今の第2次森保ジャパンを見てみると、23年にはドイツ、トルコを立て続けに撃破。23~24年にかけて10連勝。2024年のアジアカップこそ失敗したが、挫折はその時だけ。両チームとも「強豪の仲間入りを果たした」といった評価を受けているのだ。

ザックジャパンの教訓を生かせ…完成度をより上げる方法

「順調に行っているチームほどW杯本大会では勝てない」と1998年・2010年の代表指揮官・岡田武史監督(JFA副会長)も23日の練習時に警鐘を鳴らしたというが、本当に今の楽観ムードは怖い。ザックジャパンも下降線を辿り始めたのは、切符を手にした13年6月以降。そこからの1年間は混乱続きだった。

 ザッケローニ監督が大きなショックを受けたのは、コンフェデレーションズカップでのブラジル、イタリア、メキシコ相手の惨敗だろう。指揮官はそのタイミングで中村憲剛(川崎フロンターレ/クラブ・リレーションズ・オーガナイザー)や前田遼一(日本代表コーチ)、駒野友一(サンフレッチェ広島育成コーチ)らベテラン勢の一掃を決断。同年夏のE-1選手権(韓国)でタイトルを獲った大迫勇也(ヴィッセル神戸)や柿谷曜一朗(解説者)、山口蛍(V・ファーレン長崎)ら若手への切り替えを急いだ。本大会の時点で大迫や山口が戦力になったことを考えると、必ずしもそのトライは悪くなかったが、ドラスティックすぎる変化はチームのバランスを崩す結果になってしまった。

「これからのテストマッチでどういう結果になっても、一喜一憂しないことが大事。プロセスを重視するべき」とキャプテン・遠藤航(リバプール)は繰り返し強調しているが、本当にそれは重要な教訓だ。サウジ戦のようにやや低調な内容だったり、強豪に負けたりすると、「何をやっているんだ」「W杯優勝なんて言える状況じゃない」といった雑音が必ず起きる。そこでブレずに先を見た強化ができるかどうかが、大舞台で成功を収めるための、最重要ポイントだ。

 もちろん南野拓実(ASモナコ)や久保建英(レアル・ソシエダ)らが言っているように、フランスやイタリア、モロッコといった強豪国とのマッチメークを進め、真っ向勝負できる環境を作っていくことも大切。9月以降の予定はまだ正式発表されていないが、9月がアメリカ遠征、10~11月は国内で南米勢との対戦が組まれる見通しという。となると、彼らが熱望する国々と戦える可能性は2025年3月の代表ウイーク、もしくは大会直前のテストマッチということになるが、その時点でチームの完成度がもう一段階、二段階上がっていなければ、そういう国を凌駕するような戦いはできない。限られた代表活動の中で全てをカバーするのは難しいだけに、やはり選手個々のプレー環境をレベルアップさせていくことが重要だと言っていい。

バックアップするメンバーの底上げが必須

 遠藤や三笘薫(ブライトン)、鎌田大地(クリスタル・パレス)、南野、久保のように欧州5大リーグでプレーしている面々のリーグレベルは問題ない。そこでできるだけ自身のパフォーマンスを引き上げ、より活躍度を上げていくことを最優先に考えるべきだ。それ以上に大切になってくるのは、主力をバックアップするメンバーの底上げだ。

 例えば、サウジ戦に先発出場した菅原由勢(サウサンプトン)はプレミアリーグに参戦しているものの、クラブが最下位に低迷し、自身も出番が減りつつある。そういったマイナス面が今回のパフォーマンスにも表れていた。サウサンプトンがチャンピオンシップに降格した場合、彼がそこでプレーするのか、別の環境に赴くチャンスを得られるかは未知数だが、やはり試合に出続け、活躍度を上げないと、代表主力に近いところには行けない。

 それはフランス・リーグアンで残留争いに巻き込まれている伊東純也と中村敬斗、関根大輝(ともにスタッド・ランス)にも言えること。田中碧(リーズ・ユナイテッド)にしても、プレミア昇格できるか否かでキャリアが大きく変わってくる。

 若い世代の藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)も「プレーするステージを上げないといけない」と語っていたが、この1年間でそういう人材が次々と出てくるのが理想的だ。2005年生まれ以降のロサンゼルス五輪世代も含め「選びきれないほどの選手がいる」という潤沢な状況が作れれば、安心して大舞台に挑めるようになる。

 いずれにしても、森保監督らスタッフ側はザックジャパンの失敗を再検証し、その教訓を生かす努力をすべきだし、選手個々は所属先での自己研鑽に注力することが肝要だ。サウジ戦の課題も踏まえつつ、高みを追い求めていくことしか、大願成就の道はない。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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