ドイツで中盤に君臨…佐野海舟は「リーグ最高の1人」 監督や熱狂的ファンが称賛する訳【現地発コラム】

マインツの佐野海舟【写真:Getty Images】
マインツの佐野海舟【写真:Getty Images】

3位と大躍進のマインツ、中心選手として活躍する佐野海舟の成長

 王者奪還を狙うバイエルン・ミュンヘンが首位を走り、昨季優勝のレバークーゼンが2位から虎視眈々と連覇を狙う。白熱の優勝争いが続くドイツのブンデスリーガにおいて、この2強に次ぐ3位につけているのが24歳のMF佐野海舟がプレーするマインツだ。

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 3月の代表週間では主軸のFWヨナタン・ブルカルトとMFナディム・アミリが揃ってドイツ代表に復帰。イタリアとのUEFAネーションズリーグ準々決勝第1戦(2-1)で即スタメン出場起用したところに、代表監督ユリアン・ナーゲルスマンの深い信頼を感じさせる。今回は選出から外れたが、GKロビン・ツェントナーも元ドイツ代表キャプテンのローター・マテウスが「今季ブンデスリーガ最高のGK」と太鼓判を押すほどのパフォーマンスを披露している。

 そんな大躍進の中心選手と同等の活躍をしているのが佐野だ。第26節を終えて全試合に出場しており、ボー・ヘンリクセン監督が記者会見で名指しの賛辞を贈ることは、もはや珍しいシーンではない。先日も「サノはリーグ最高のボランチの1人」と褒めていた。

 チームメイトが佐野の特徴をまだ掴みかねていたシーズン序盤は、どこまで任せていいのか、どこは助けたほうがいいのかの線引きがあいまいだった。互いに力を引き出し合う関係性がないなかで、ブンデスリーガを戦うのは難しい。佐野本人も「満足いかない」「スピードや強度にギャップが」「慣れるのが遅い」と試合ごとに自身への課題を口にしていた。接戦を落とすなど歯がゆい試合が続いていただけに、思うところも強かっただろう。

 だが、「マインツは今季も残留争いに苦しむことになりそうだ」と語る識者の声が増えていくなかでも、ヘンリクセン監督は一度もチームに対してネガティブなことを口にしなかった。歯車が噛み合う瞬間を待ち続けていた。このチームには大きなことを成し遂げる力があるんだというメッセージを送り続けた。

ボールを奪い、跳ね返し、的確にパス…「中盤に君臨」する佐野の存在感

 試合を重ね、チームが少しずつ勝ち点を積み重ねてくると、あらゆるところで相乗効果が生まれ始めた。チームダイナミクスが機能し、バイエルン、レバークーゼン、ボルシア・ドルトムント、ライプツィヒといった強豪クラブ相手にも堂々たる試合を披露している。

「いや、一時的な好調かもしれない。どこかでリズムが狂って戦績がガクッと落ちるかもしれない」。そんな批判的な識者の声もあった。だがマインツは惑わされることなく、自分たちのサッカーに集中して戦い続けている。

 最近の佐野は「中盤に君臨」という言葉がよく似合う。相手が抜けてきそうなところには必ずと言っていいほど佐野がいる。ボールを奪い、ボールを跳ね返し、セカンドボールを的確に味方につなげる。3-1で快勝した第25節ボルシアMG戦後には次のように話していた。

「攻撃している時に守備のリスク管理のところは意識していた。後半はそこが上手くいったかなと思います。でも奪ったあとにつなぎ切れなかったところもあったので、そこは課題かなと思います」

 チームメイトとの連係が進んでいることは、佐野1人で処理しなければならない状況が減っている事実からも窺え、チームとしての守備バランスは着実に向上している。ダブルボランチを形成するアミリと佐野がゴール前まで上がることがあっても、トップ下のイ・ジェソンがボランチの位置にスムーズに下がってサポートに入る。

「一体感は凄いと言われているし、それがこういう結果にも出ていると思う。これを崩してはいけないなと思います」(佐野)

 ボルシアMG戦は後半33分まで2-0とリードし、良い流れで試合を運びながら、ちょっとしたずれを突かれて2-1とされていた。そこで気持ちが守りに入ることもあり得た。守備陣は守備をより意識し、攻撃陣は3点目を狙って攻守のバランスが大きく崩れ、チームの統率が失われるケースも考えられる状況。だが佐野もマインツも守りに入る姿勢を全く見せず、一丸となって3点目を奪い勝負を決めた。このあたりにチームとしての成長を感じさせる。

「いや、引きすぎるのは良くないなと思ったし、そこでビビらずに前からいったことで3点目が生まれたと思う。ああいう状況でも守りに行くんじゃなくて、しっかり3点目を取りに行くことがチームとして共通認識であるし、それを発揮できたのが良かったと思います」(佐野)

佐野が見せた価値の高いファインプレーに熱狂的なファンも拍手

 ボルシアMG戦の終盤、アウェーまで駆けつけたマインツファンから特に大きな声援が上がったシーンがある。

 佐野が自陣左サイドタッチライン際で相手とボールを奪い合うと、上手く身体を入れてボールを収めた。セーフティーにスローインへ逃げず、さらに身体をグッと入れて前へと運び出し、相手がたまらず外に出して自分たちのスローインにしてしまうという非常に価値の高いファインプレー。ガッツポーズも見せずに淡々とすぐ次のプレーに向かう佐野。上半身裸の熱狂的なファンたちが力いっぱいの拍手を送っていたのが印象的だった。

 リーグも残すところ8試合。第26節終了時で勝ち点45(3位)は、マインツ史上最高の戦績だ。これまでのベストは2010-11シーズンにトーマス・トゥヘル監督時の5位フィニッシュ。元日本代表FW岡崎慎司が15ゴールと大活躍した2013-14シーズンも素晴らしかったが、順位は7位だった。

 シーズン前にマインツがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権争いをすると言ったら誰も信じなかったことだろう。いまやそれが現実となっても誰も驚かない。それくらい高いクオリティーのパフォーマンスを見せているのだから。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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