旗手怜央らがプロで飛躍…「本音は悔しい」 高校サッカー監督の立場で「彼らに負けない」

鳥取城北高の指揮官・貫場貴之監督が目指す強化コンセプト
近年、鳥取県内でメキメキと力をつけている鳥取城北高。昨年度の選手権予選では3年連続で決勝進出を果たすも、15年連続出場をしている強豪・米子北の壁を打ち破ることができなかった。
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今年3月の中国新人サッカー大会。鳥取県第2代表で出場をした鳥取城北は1回戦で高川学園と対戦。全国常連校を相手に0-0と大健闘を見せた。しかし、PK戦の末に敗れ、金星を挙げることはできなかった。
まさに惜敗だったが、チームを率いる貫場貴之監督は「これで喜んでいるようではいけない。僕らが目指しているのはもっと高いところにある」とはっきりと口にした。
貫場監督は30歳の青年監督。富山第一高から順天堂大学を経て、大学卒業後にJFLのミネベアミツミFC(宮崎)で1年間プレーしたのちに、2019年に鳥取城北に赴任しサッカー部の監督に就任。今年で7年目を迎える。
「城北は野球や相撲が有名なイメージがあったのですが、サッカー部を強化しようという流れになり、僕が就任することになりました」
貫場監督の現役時代は何度が見たことがある。富山第一時代はトップ下やボランチを主戦場とし、2011年度に立ち上がった高円宮杯プレミアリーグで2年連続プレー。小柄だがインテリジェンスあふれるプレーで、可変システムを採用していた富山第一においてプレーメーカーとして大きな存在感を放っていた。
順天堂大時代は1年からトップチームでサイドハーフとして頭角を現すと、4年時には2学年下の旗手怜央(セルティック)、名古新太郎(鹿島アントラーズ)らとともに総理大臣杯で準優勝に輝いた。貫場監督はチーム全体のバランスを見ながら攻守において的確なポジショニングを取るなど、常にチームファーストのプレーをする印象だった。
その彼が指導者として鳥取で新たな流れを作り出そうとしている。試合後、話を聞いてみると、指導理念や考え、これまでの経験の価値など多くの示唆に富んだ答えが返ってきた。
「あのプレミア2年間、大学4年間の経験値がなかったら彼らに伝えることはもっと少なかったと思います。当時は僕もプロサッカー選手を目指していたので、本音を言うと悔しい気持ちがありました。それは今もあって、日本代表になった選手、Jリーグで活躍している選手に負けたくないし、僕は指導者という立場で彼らに負けないくらいの熱量で高校サッカーに向き合っているつもりです」
なかでも旗手は今回の北中米ワールドカップアジア最終予選のメンバーにも名を連ねる現役の日本代表だ。「怜央のミドルシュートやドリブルからのシュートは本当に凄まじくて、同じピッチに立っていても鳥肌が出たり、衝撃を受けたりするんです。それに誰よりも努力をする。そこは本当に凄いと思っていました」と振り返るように、本物の才能を持つ選手の凄まじさを肌で感じる。
一方で、「このとんでもない才能を持った選手たちの中で、サイズもスピードもない3番手、4番手の自分がどうやって試合に出るか、周りの信頼を掴むのかを常に考えていた」と常に客観的な視野を持ちながら自分と向き合ってきた。
目先の勝利だけにとらわれず「社会で活躍する人になってほしい」
「この過程の中で感じたのは、どこでも力を発揮できる頭脳と思考と、日々の基礎の努力が必要だということ。思考が整うようになると、徐々に自分が何をすべきかクリアになっていって、日々の技術的な積み重ねがモノを言うようになってくるんです」
現役の頃に見た景色と得た教訓が今の指導のベースになっている。鳥取城北でも指導年月を積み重ねていくうちに、ある気づきを得たという。
「就任1年目から4年目までは打倒・米子北でやってきたのですが、そればかりになるとその先が考えられないし、僕らのコンセプトとは異なってくる。それは違うなと感じるようになりました。もともと選手たちには将来、最高の大人になって欲しい。その最高は何かというと、サッカーで活躍する選手はもちろん、人間性の面でも家族サービスができるお父さんになったり、日常で困っている人を助ける人だったり、社会で活躍する人になってほしいというコンセプトを持って始めたことを思い出しました。
幅広い視点を持ちながら、本気の熱量で選手たちに向き合っていくことを大事にしようとやってきたので、それが米子北を倒すことばかりになってしまうとぼやけてしまう。選手と指導者という立場は違いますが、人としての立場は対等だからこそ、日々、しっかりと彼らに向き合って、戦うステージを上げていきたいという想いでやっています」
そのアプローチは徐々に形になりつつある。今年も悲願の全国大会出場だけではなく、その先のステージで戦える、堂々と立ち振る舞えるチームを作る。かつて自らが名だたるメンバーの中で創意工夫をして、壁を突破してきたように。鳥取の地の新たな伊吹は、着実にその力をため込んできている。
(FOOTBALL ZONE編集部)