中3争奪戦→強豪校入りも…全国で異変「あ、突破できない」 10番が怯み「後悔しています」

名門・前橋育英の10番を背負う平林尊琉【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
名門・前橋育英の10番を背負う平林尊琉【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

選手権優勝校・前橋育英の新たな主役候補たち【2】平林尊琉

 第103回全国高校サッカー選手権大会を制した前橋育英。周囲は祝福ムードに包まれているが、すでに次なる1年へ新チームは立ち上がっている。主軸候補は5人。そのうちの1人が10番を背負ってきたMF平林尊琉だ。ここでは、彼が胸に秘める思いに耳を傾けながら「優勝のその後」をテーマに物語を紡いでいく。

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「僕にとって後悔の大会です」

 今冬の選手権で主力を担った平林の口から漏れたのは、意外な一言だった。

 JFAアカデミーU-15出身の平林は高校進学時、多くの強豪校やJクラブユースが激しい争奪戦を繰り広げた末に前橋育英にやってきた。サイドハーフ、トップ下、FWという攻撃的なポジションならどこでもこなせるインテリジェンスを誇り、フィニッシャーとしてもパサーとしても的確な判断と正確な技術に裏付けられたプレーを披露する。

 どのポジションでも相手を見て、戦況を分析しながら流れを断ち切ることなく安定したプレーと積極的なプレーを使い分ける彼に対する周りの信頼は厚く、1年生の時はプレミアリーグEASTで14試合出場ので2ゴールをマークし、選手権にも全2試合にフル出場。昨年は10番を背負い、プレミアEASTでは18試合すべてにスタメン出場。選手権でも6試合全試合にスタメン出場するなど、チームの主軸として1年間戦い抜いた。

 だが、その彼がなぜ「後悔」という言葉を口にしたのか。

「選手権での僕は正直に言うと、好調なチームの中で1人彷徨っていたという印象なんです。(左サイドハーフとして)自分のサイドでボールを受けて、1対1のシーンでも『あ、これ突破できない』と思ってしまうシーンが多くて、仕掛けないでパスで逃げたり、下げたりしていました」

 サイドでの1対1には自信があった。単独突破、周りを使って抜け出してリターンをもらっての突破は得意なはずだった。実際にプレミアEASTや選手権予選ではそれが効力を発揮していた。だが、2度目の選手権ではそれが出せない。経験値があるはずなのにだ。

「最初は『1年生で堂々とできていたので大丈夫だろう』と思っていたのですが、10番を背負って、勝っていくほどに観客が増えたり、優勝の期待値が上がったりしていくうちに、知らず知らずのうちにプレッシャーになってしまっていたんです。10番や1年から出ている責任を感じ過ぎてしまっている自分がいました。その中で堂々とプレーしている同級生たちを見て、素直に『みんな凄いな』と思ったし、同じピッチには立っているけど置いていかれてしまっている感覚でした」

 それでもミスの少ないプレーはチームにとって欠かせない存在であることは間違いなかった。リスクを冒さずにボールを着実につないでチームのリズムを生み出していたが、彼にとってそれは怯んで無難なプレーに終始する本来の自分ではない姿であった。

「側から見るとパスをつなぐという面ではやれているように見えたかもしれませんが、自分の中では完全に逃げでした。チームとして結果は出ましたが、僕にとっては淡々とプレーしてしまった大会だったと後悔をしています」

 だが、この経験をしたことは彼にとって決してマイナスなことだけではない。自分が自分でないような感覚に気づき、それを振り返って原因を突き詰めたことで、彼はここから「正しい努力」をする道筋がはっきりと見えた。

「後悔しても過去には戻れないし、後悔してからでは遅いということを痛感したからこそ、僕は優勝の余韻に浸ることなく、いかに大舞台で自分らしさを発揮できるかを考えて日々を過ごしています。日々の1プレーへのこだわりやトライすることへの意欲が足りなかったからこそ、毎日を大事にしてチャレンジし続けたいと思います」

 プーマカップ群馬ではサイドハーフからトップ下にポジションを移して、水を得た魚のように積極的なプレーを見せる彼の姿があった。360度から飛んでくるボールに対して、次のプレーもイメージできた鋭いターンやダイレクトプレー、そして正確なファーストタッチからのドリブル。ポストプレーヤーのFW四方田泰我とのコンビネーションで何度もチャンスを演出。帝京高校との最終戦では鮮やかな縦の崩しから決勝弾を叩き込んだ。

「今年は堂々とプレーしたいし、臆せずに後悔をしないように過ごしたいです」

 決意は固い。自分の殻を破ってひたすら前へ。平林の自分に対するリベンジの1年が幕を開けた。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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