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子供に「教えすぎない」環境を作れるか Jユースも指導した異色の日本人社長がジュニア育成に目覚めたワケ【インタビュー】

ファンルーツ社長・平野淳氏、渡英して得た新たな気づき
静岡県御殿場市で3月27日から5日間、ジュニア年代の国際大会「コパ・トレーロス2025」が開催される。国内強豪のほか、海外の名門クラブも招待され、U-12とU-11の部それぞれ40チームが参加。今回で14回目を迎えるジュニア年代の“祭典”を2010年に立ち上げたのが、株式会社ファンルーツ代表取締役社長でFCトレーロス代表の平野淳氏だ。
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過去にはFC東京や横浜F・マリノスなどのJリーグ下部組織でフィジカルコーチを務め、ファンルーツ発足後はスクール事業、イベント運営、そしてライセンスビジネスなどを手掛けてきた平野氏。その原点には、Jリーグが創設されて間もない1990年代前半に海外へと渡り、欧州数か国に加えてアメリカ、オーストラリアでの指導者ライセンスを取得してきた経歴がある。異色のキャリアを歩んできた平野氏が、ジュニア年代の育成に力を入れるようになった理由はどこにあるのか。前編ではファンルーツ発足に至る半生を追った。(取材・文=轡田哲朗/全2回の1回目)
◇ ◇ ◇
「僕の勘違いですね。プロ選手になりたいって」
海外留学を決意した理由について聞くと、平野氏は笑った。
「兄の影響で小学1年生から少年団に入りました。選手としては大したキャリアではなかったけど、元々(サッカーを)観るのも好きだったので海外に行きたいなと思っていました」
その思いは次第に強くなり、大学時代にプレーしていた「むさしのFC」のコーチの影響もあり、1年間休学をして英国行きを決断したのだという。
しかし、渡英した初年度に前十字靭帯断裂の重傷を負ってしまう。そこで「多くの方に支えられました」と話す平野氏だが、「それぞれの仕事を見ていたら、やりたいなと思ったのがフィジカルコーチでした」と、自身の将来像が見えてきたと話す。
「最初に留学した次の夏に、イングランドサッカー協会のインターナショナルコースがあって参加したのですが、その時にいろいろな国のサッカー界の中心になるようなコーチたちが集まっていて、彼らの会話も面白かったんです。ポルトガルの名将の1人でもあるアンドレ・ビラス=ボアスも17歳という年齢で受講していました。そこで海外のライセンス取得のコースに行けば、いろいろな国のサッカーだけでなく、普通なら出会えないような人たちから学べると気付いて、おいしいなと思いました」
それから「一時期は日本のコンビニエンスストアなどでアルバイトをして、そのお金でいろいろな国に行ってライセンスを取るような生活をしていました」と、イングランド、ドイツ、オランダの欧州各国に加えて、アメリカやオーストラリアでも資格を取得。「その国のやり方が、ライセンスのコースに凝縮されていると思います。それを日本で生かす時にどうすればいいかと言えば、アレンジも必要ですが、向こうではできるだけ吸収したいと思っていたんです」と、さまざまな国の考え方に触れて知識を蓄えていった。

背中を押した大学サッカー指導者の言葉
そうした活動を続けるなかで元日本代表GK加藤好男氏と出会い、1997年にジェフユナイテッド市原(現・千葉)で研修をしたのがJリーグとの関係の始まりだった。その後はFC東京や横浜F・マリノス、横浜FCの育成年代の指導に携わり、多くのプロ選手の育成に関わった。Jクラブユースでの指導経験を積んだ平野氏は、こうした中学生や高校生の時期よりも、さらに若い年代へのアプローチが必要だと感じたと振り返る。
「海外で勉強したことや広がったネットワークをサッカー界に還元できないかということや、子供たちに経験の場を作れないかなと思ったんです。FC東京の時に中学生年代の伸び幅の大きさを感じて、そのベースとして小学生年代が大事だなと。いかに教えすぎず、選手が伸びるような環境を作れるかが大事だろうと思ったし、その時に海外などいろいろな視点を持てると違うのかなと思いました」
その一例として、大学サッカーの指導者とコミュニケーションを取った際に「高校までに燃え尽きてしまってから入ってくる子もいる」との声を聞いたことを挙げ、「小学校から教えすぎて、例えば全国大会があるのも日本くらいで、やり過ぎなんだという話をしたこともありますし、伸びしろを作るには小学生年代が大事だなと感じています」と、平野氏が若年層へのアプローチに力を入れている背景を明かした。
そうしたキャリアを積み重ねるなかで、2003年に株式会社ファンルーツを立ち上げた。「最初のスクールは、2003年に立ち上げたインターナショナル・スクールと国内の学校の子供の交流の場を作るものでした。お互いの国の言葉が話せなくても目標を持って一緒に戦えるのは、サッカーのいいところだと思います」という活動からスタートし、これまでさまざまなサッカースクールやイベントを主催してきた。中には商店街で、その日に訪れた子供たちがサッカーに触れ合えるような活動もあった。また、「FCトレーロス」という小中学生年代のチームも発足させたほか、育成年代のチームの海外遠征のコーディネイトも行っている。現在では、国内外のプロサッカー選手やサッカークラブのマネジメントやスポンサーシップ、撮影コーディネイト、クリエイティブ素材の作成など、サッカーを軸にしたビジネスを広げている。
そんな平野氏が手掛けるものの1つが、海外チームも招待して行われる小学生年代の国際大会「コパ・トレーロス」だ。トレーロスはスペイン語で「闘牛士」という意味で、「勇敢に戦う子供に育ってほしい、前を向いて戦える子になってほしいという意味を込めて」、自身が運営するチーム名と同様に大会名にも採用。今年は静岡県御殿場市で3月27日から31日まで開催される。
U-11の部にはスペインのアトレティコ・マドリード、U-12の部にはポルトガルのスポルティングと海外の名門チームも参加するが、そこには海外生活をしていた時期に見てきた経験と思いが詰まっているという。
(後編へ続く)
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)