Jリーグで話題の“アクチュアル・プレーイングタイム” 伸ばす要因は審判だけにあらず…欠かせない”態度”【コラム】

バーレーン戦で日本と対戦国が示した“プレーを続ける”という態度
3月20日のバーレーン戦(2026年北中米ワールドカップアジア最終予選)で日本は2-0と勝利を収めた。この結果、日本代表は2026年アメリカ・カナダ・メキシコW杯への出場権を獲得した。
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この試合には、鎌田大地、久保建英の素晴らしいゴール、相手の攻撃をすべてはね返して無失点で抑えた守備などいくつもの見せ場があったとともに、もう1つ見逃してはならない部分があった。それは試合が非常にスムーズに流れたという点だ。
この試合を裁いたのはアブドゥルラフマン・イブラヒム・アルジャシム主審。またVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)まで含めたレフェリーはカタールのセットだった。37歳のアルジャシム主審は、2022年カタールワールドカップで2試合笛を吹き、またカタールの優秀審判に3度選ばれるなど輝かしいキャリアを積んでいる。
1試合を通じてアルジャシム主審が完璧だったとは思わない。森保一監督が珍しく抗議を続けて主審と会話する場面もあったほどだ。いくつかの点においては間違った判断だったと言わざるを得ないシーンもあった。
しかし、頭部の負傷や交代を余儀なくされるほどの怪我の場面を除いて、試合時間が浪費されることは少なかった。
たとえば前半36分、久保が右サイドをドリブルで駆け上がった場面。久保はペナルティーエリアの直前で縦に抜け出したとき、ワリード・モハマド・アルハヤムに足をかけられたように見えた。久保は一度耐えたものの、バランスを崩してしまう。
相手が出した足をかわすためにジャンプしてバランスを崩したとも言える場面だったが、アルジャシム主審は接触がなくてファウルではないとしてプレーを続行させた。久保は憮然とした表情をしながらも、立ち上がって次の局面に備えた。
また前半44分、南野拓実が守田英正のロングパスに抜け出しペナルティーエリアに侵入しようとした場面。カバーに来たアルハヤムとのボールの奪い合いで同時にボールを蹴った南野は勢いに負けて転んでしまう。
主審はすかさず続行の合図を出し、南野はすぐさま立ち上がると今度は相手のボールを追い始めた。
いずれの場面でも、久保や南野は倒れたまま「ファウルだったのではないか」というアピールをすることなく、すぐ次のプレーに移っていった。
バーレーンも非常にフェアな戦いを継続、Jリーグでも類似事例
日本の選手だけではない。たとえば後半6分、競り合いの中で伊藤洋輝の肘がマハディ・アブドゥルジャバル・ハサンの首筋に当たった。アブドゥルジャバル・ハサンは倒れ込んだが、バーレーンの選手たちはそのままプレーを続行する。
主審はハサンを見て立つように手で合図し、次にモハメド・ジャシム・マルフーンが倒されてプレーを止めるまで、そのままにした。そしてマルフーンがすぐに立ち上がったのを見てからハサンの状況を確認しに行っている。
この場面で倒れ込んだプレーヤーが出たのを見てほかの選手たちがプレー中にアピールを続けたり、プレーが途切れたところで主審を囲んで抗議を続けたりするというのは、いろいろな国でよく見られた光景だった。しかしバーレーンは非常にフェアな戦いに終始して、とにかくプレーを続けようとしていた。
この、日本代表とバーレーン代表の選手たちの態度こそがプレーが絶えることなく続いた要因だった。
実は同じようなことがJリーグでも見られている。たとえば3月16日のJ1リーグ第6節、横浜F・マリノス対ガンバ大阪での出来事だった。この試合を担当したのはベルギーから来たネイサン・フェルボーメン主審。
後半23分、味方選手の靴紐が解けてしまったのを見た朴一圭はゴールキックに時間をかけた。日本の主審なら靴紐を締めるまで待ったかもしれない。しかしフェルボーメン主審は何度かキックを催促したあと、朴にイエローカードを提示した。朴は戸惑いながらも受け入れていた。
また後半33分には、遠野大弥が足に痙攣を起こし倒れ込んだ。半田陸が手伝って足を伸ばしていたが、フェルボーメン主審は早く立つように促す。これも日本の主審ならじっくりと時間を取って対応したかもしれない。遠野は主審の意図を理解してすぐに立ち上がり、その後交代していった。
この主審の可能な限りプレーを続けさせるという考え方とそれに対応した選手の反応も、アクチュアル・プレーイングタイムを伸ばすのには必要なことだろう。
思い起こすオーウェンの記憶「激痛があったはずだが…」
今シーズン、「いかにアクチュアル・プレーイングタイムを伸ばすか」ということが話題になっている。そこではレフェリーのジャッジが取り上げられることが多い。
しかし、この日本対バーレーンを見ていると、選手がプレーイングタイムを伸ばそうと考えるかということこそ実は重要だというのがよく分かる。その意味でも代表戦は日本サッカーの手本だった。ヨーロッパ、特にイングランドでの「プレーを続ける」という考え方はアクチュアル・プレーイングタイムを伸ばすのに必要だ。
選手が「プレーを途切れさせない」と考えていた例でいつも思い出すことがある。2006年ドイツワールドカップで、スウェーデン対イングランドを取材したときのこと。
試合開始早々の1分、イングランドのエースストライカー、マイケル・オーウェンは足をひねって倒れ込んだ。しかし自力でタッチラインの外に這って出ると、そこで治療を受けたのだ。診断の結果は左膝の前十字靭帯断裂。激痛があったはずだが、オーウェンは試合を途切れさせることなくピッチを去っていった。
あのときはオーウェンに対して「そこまでしなくてもいいのではないか」と思った。しかし、今は「そこまでの思いでプレーを続けるのだ」と思うようになった。それは同じような気持ちの強さを日本代表選手たちから感じているからだ。そしてその気持ちを持ちつつ、しっかりと勝利を収めたことが何よりも美しいのではないだろうか。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。